26. 財政民主主義への転回
2026年1月23日、高市総理が国会冒頭で衆議院を解散し、2月8日の総選挙に向けて各党が一斉に公約を打ち出しました。消費税の一部減税を掲げる政党が相次ぐ一方で、決まって持ち出されるのが「財源論」です。しかし、イカ男がこれまで繰り返し述べてきたように、税は国家財政の財源ではありません。少なくとも、現在の日本経済においては、そこを過度に気にする必要はないと考えています。
そこで、より分かりやすい制度として“デジタル円”の導入を考えてみたいと思います。もちろん、この発想はイカ男の独創ではなく、形は違えど、ウォーレン・モズラー(Warren Mosler)やステファニー・ケルトン(Stephanie Kelton)、アデア・ターナー(Adair Turner)など、これまで多くの経済学者や政策研究者が言及してきたものです。共通する発想は、「通貨をモノとしてではなく、数値情報として扱う」という点にあります。
具体的には、日本銀行を通じて必要な円建ての数値を創出し、それを市中銀行経由で民間に流れる事業に使います。利便性のために、現在と同じように一部は日本銀行券や補助貨幣として流通させればよいでしょう。税として回収された円は、デジタル上で消去すれば済みます。技術的には、きわめて単純な話です。この仕組みが整えば、一般会計に限らず、災害時などの緊急対応にも即応できます。また、徴税・会計処理に関わる人件費も大幅に削減できる可能性があります。
ただし、この仕組みには当然リスクもあります。あまりにも簡単に通貨量を増やせてしまうため、実体経済の制約を無視した事業計画が行われれば、インフレを招きます。重要なのは、いくら円を発行できるかではなく、労働力は足りているか、原材料やエネルギーは確保できるか、その事業は短期・中長期的に本当に必要か、といった実物資源の制約です。この全体調整を、現在の財務省だけで担うのは現実的ではありません。いくら優秀な官僚であっても、法学部出身者が中心では、産業構造や技術動向、医療福祉、農林水産までを横断的に判断するのは不可能です。かつて存在した経済企画庁のように、省庁横断的で、内閣府直属のマクロ視点を持つ新たな部局が必要だと考えます。産業だけでなく、農業、医療、社会保障まで含めた国全体の資源配分を設計する司令塔です。
一定期間ごとにデジタル円を決算すると、ほぼ確実にプラスになるでしょう。そしてその数値は年々積み上がっていきます。これは現在「国の借金」と誤解されている国債残高と本質的には同じです。しかし実態は、インフラや教育、医療、防災、技術基盤といった形で、国民生活の向上に変換された履歴です。過度なインフレが起きていなければ、その数値は日本の豊かさと持続性を示す指標になります。むしろ、長く国家が機能してきた証拠として誇るべきものです。
では、デジタル円を導入すれば国債は不要になるのでしょうか。答えはNOです。国債には、通貨発行の会計処理とは別に、極めて重要な役割があります。日本銀行による買いオペと売りオペを通じた金融調整や巨額資金を円建てで安全に保有する手段、金融機関のバランスシート安定化、特に巨額の資金を管理する場合、市中銀行預金よりも国債で保有する方が圧倒的に安全です。したがって、デジタル円と国債は併用されるべきです。
この制度は合理的ですが、導入には混乱が伴います。最大の壁は、国民の理解です。税は財源ではないという発想は、経験的に刷り込まれた常識を覆します。これはまさにコペルニクス的転回です。若い世代には自然に受け入れられても、既存世代には時間がかかるでしょう。さらに、政党が票目当てで過大な予算を掲げ、放漫財政に陥るリスクもあります。そして、最大の抵抗はおそらく財務省です。会計処理が自動化されれば、財務省は「国家の司令塔」ではなくなります。これは組織として強い抵抗を生むでしょう。ただ、財務を扱う官僚が法学士ばかりという現状自体が変です。法律の専門家は、むしろ各省庁でこそ必要とされる人材です。
税金の無駄遣いという言葉が飛び交いますが、問題はお金ではありません。限られたマンパワーと資源を、どこに使うかです。通貨はただの数値記号です。大切なのは、その裏にある人間の労働と物資、エネルギーです。予算とは、金額ではなく「資源配分の設計図」なのです。この設計図の妥当性を国会で議論することこそ、財政民主主義の基本なのです。
この仕組みは日本でこそ成立しやすく、米国やEUでは難しいと考えられます。なぜなら、日本は自国通貨建てで国債を発行し、中央銀行と政府が制度的に密接に連動しているからです。一方、米国ではドルが事実上の世界基軸通貨であり、財政運営は常に国際金融市場の影響を強く受けます。EUに至っては、共通通貨ユーロの下で各国が独自に財政を担うという構造的制約があります。なので、ドイツでさえ原理的には「財政破綻」がありえます。したがって、デジタル円と国債の併用システムは日本発のまったく新しい制度になるのです。
現実的に、これ以上のことをイカ男はできそうにありません。どなたか志がある若い人、ぜひお願いします。Boys and girls, be ambitious—like this old man here.

