25. 東シナ海へ「移住」したら

もし仮に、春に台湾北部で漁獲される小型で成熟したケンサキイカがフィリピン海から黒潮で運ばれてきているとしたら、どんなことが考えられるでしょうか。

 

この来遊群(第1世代)は、黒潮によって湧昇流が発生する海域で産卵を始めます。なぜなら、湧昇流はヤリイカの仲間が産卵行動をするさいの引き金になるからです。さらに、この海域は東シナ海の大陸棚縁辺にあたり、来遊してきたケンサキイカにとって久しぶりにみる浅い海だからです。ケンサキイカは海底に卵塊を産み付ける産卵様式ですので、生存限界よりも高い水温の海底(およそ15℃以上)にしか産卵することはできません。

第1世代の移動経路

ひと月くらいで産み付けられた卵塊から稚イカ(第2世代)がふ化します。これらのイカの多くは台湾北部海域で成長すると考えられますが、たまたま黒潮の近くにいた個体は流れにのって東シナ海縁辺海域を北上するはずです。あるものは黒潮でそのままトカラ海峡を通過して太平洋側へ運ばれ、あるものはトカラ列島西沖から対馬海峡へ向かいます。季節は夏なので対馬暖流の勢力は十分に強く、九州北西沿岸(天草海など)で寄り道することなく、沖合を速やかに北上します。夏に対馬周辺で漁獲される小型のケンサキイカと、秋に山陰沖と対馬海峡で漁獲されるブドウイカ(ケンサキイカの季節変異型)の正体がこの来遊群だと考えられます。

第2世代の移動経路

では、日本で夏と秋に漁獲されたものと同時期に生まれた台湾北部のケンサキイカ(第2世代)はどうなったのでしょうか。それらも東シナ海中部から南部で成長し、夏から秋にかけて漁獲対象になります。特に台湾北部の海域では、台湾のイカ釣り船に多数漁獲されますが、それらは産卵のために集まってきたものです。生き残った個体は、秋から冬にかけて湧昇流海域で産卵します。

 

もちろん、約ひと月後ふ化した稚イカ(第3世代)も、前と同じように一部は黒潮によって日本周辺へ運ばれます。春から夏に対馬海峡や山陰沿岸で大型の成熟したケンサキイカとして漁獲されるのはこれらのイカです。このうちいくらかは対馬東水道で産卵することが分かっています。同様に、日本周辺へ流されなかったケンサキイカも成熟して夏ごろに東シナ海で産卵すると考えられます。

第3世代の移動経路

もちろん、ひと月したらその卵がふ化し(第4世代)、また海流によって日本周辺へ運ばれるはずですが、その頃は冬なので、対馬海峡の水温はかなり低く(15℃以下)、生き残るはかなり難しいでしょう。ただ、太平洋沿岸へ流された場合は生き残ります。実際、冬から春にかけて小型のケンサキイカが沿岸から遊漁で釣られます。そして、東シナ海にとどまったケンサキイカはそのまま成長して、産卵し...。

資源が豊富だったころ(イメージ)

 

とまあ、こんなわけで、昔は、東シナ海ではいつでも・どこででもケンサキイカが獲れると言われていたのでしょう。しかし、現在ではすっかり漁獲量が減ってしまいました。次回はその原因と経過を追っていきましょう。

 

Follow me!

25. 東シナ海へ「移住」したら” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です