10. 根っこは同じか?

前回のブログでは、東北や北海道の太平洋側でスルメイカの漁獲量が激減した原因を推測してみました。しかし、スルメイカの漁獲が減少しているのは太平洋側だけでなく、日本海側でも同様です。原因は何となく推測できるのですが、念のためコンピュータを用いた粒子追跡実験で確かめてみました。

 

今回は順追跡ではなく、逆追跡実験をおこないました。水深10mの毎日流速データにマイナスをかけてベクトルを逆方向にし、そのデータを日付をさかのぼる順序に並べ変えます。2023年8月1日に粒子1万個を北海道西岸沖(東経140度、北緯44度)からリリースしました。そうすると、粒子のほとんどは対馬暖流をもどるように南西に移動します。6か月前の2月1日までさかのぼると、かなり数の粒子が対馬海峡に分布していました(上)。さらにその3か月前の11月1日には、山陰沿岸から対馬海峡にかけて多くの粒子が分布していますね(下)。実際この海域は、北海道西岸沖で漁獲されるスルメイカ秋季発生群の産卵域と想定されています。おそらく山陰沿岸や対馬海峡で秋に多くのスルメイカが漁獲されていた20年前は、産卵数も多く、ここでふ化した稚イカが対馬暖流によって運ばれ、翌年の夏には北海道西岸沖で大量に漁獲されたことでしょう。

逆追跡実験による粒子分布図(上は2023年2月1日時点、下は2022年11月1日時点)DREAMS_M使用

11月1日の粒子分布図で粒子が帯のようにつながっている山陰沿岸から対馬東水道(対馬海峡のうち対馬より東側)では、10月から11月にかけて毎年、国の水産研究所がスルメイカ幼生の採集調査をしています。2022年秋の調査では、幼生がほとんど確認できなかったようです(下の図で+印は採集なし)。これでは北海道での漁獲は望めません。幼生調査結果の経年変化をみると(グラフは割愛)、2015年前後で大きく減少していて、北海道周辺海域における漁獲量減少とよく一致しています。

スルメイカ幼生の採集尾数(「令和5年度スルメイカ秋季発生群の資源評価」より)

 

もちろん、コンピュータ上の粒子と生きたイカを同等に語ることはできません。しかし、粒子の移動は水塊の動きを表現しているので、一定の方角に向かって泳いでいないイカだったら、結果的に水塊と同じ移動をしているはずです。仮に、北海道を目標に泳いでいたとしても、いくらか早めに到達するだけなので、山陰沿岸から対馬海峡における漁獲量、つまり産卵量が北海道周辺の漁獲量と比例することに疑いはありません。

人工衛星夜間画像(2022年10月13日、EOSDIS Worldview)左上が朝鮮半島南東部、右下が九州北部と山口県

対馬海峡の対岸、韓国南部での漁獲状況はよく分かりませんが、日本ほど漁獲が少ないようではありません。人工衛星の夜間画像を見ると、朝鮮半島南東部沖には多数の漁火があります。イカ釣り漁船かどうかは不明ですが、スルメイカを釣っている可能性は高いとおもいます。とすれば、なぜスルメイカは対馬海峡を横断して、日本沿岸に来ないのでしょうか。ここでも、前回のブログと同じように、イカの産卵回帰に変化が起こっているのでしょうか。ひょっとしたら、日本海へと向かう秋季発生群の減少も、主に太平洋側へ向かう冬季発生群の減少も根本の原因は同じなのかもしれません。なんと、秋も冬も、日本海側も太平洋側も、原因の根っこは同じである可能性がでてきました。

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