5. 大イカは「道草」を食う

佐賀県唐津沖に出たイカ釣り船は、大小さまざまなケンサキイカ(「1.ケンサキイカとイカ男」の写真)を釣り上げて戻ってきます。これは一見当たり前のようですが、スルメイカやアオリイカでは見られないことです。スルメイカは、春は小さい個体だけで唐津では「キンズ」と呼ばれ、大きいものは冬に漁獲され「ガンセキ」と呼ばれます。これは岩石のように硬いためです。アオリイカは、初夏に大きい個体が漁獲されて「ミズイカ」、秋には小さい「モイカ」です。このようなサイズの変化は、それぞれの種の季節に応じた移動が関係しています。

イカは群れをつくって移動していると言われますが、ケンサキイカは大小のイカが1つの群れをつくっているのでしょうか、それとも別々に群れをつくっているのでしょうか、イカ男は疑問を持ちました。もし1つの群れとして移動しているのなら、何かしらの社会構造があるかもしれません。しかし、イカにはカニバリズム(共食い)の習性があるので、大きい個体がすぐそばの小さい個体を食べてしまうかもしれません。イカ男は群れの構成を調べるため、1隻の漁船が一晩で釣り上げたケンサキイカを大サイズ(2段もの)と小サイズ(3段もの)に分けて、それぞれ平衡石を分析することにしました。

経験水温の変化(Yamaguchi et al. 2019)

分析の結果、小サイズのイカは大サイズのイカよりも終始低い水温を経験していました。しかも、漁獲される直前に、いったんかなり低い水温を経験していました。さて、これらはいったい何を意味しているのでしょうか。

50m水深水温分布図と大小ケンサキイカの推定移動経路気象庁HP

経験水温の変化は台形型で、前回のブログで紹介した山型の変化と基本的には同じと考えられ、これらのイカも東シナ海南部から北上して来たようです。とすると、大サイズのイカは水温が高い黒潮の近くを通ってきたことになり、小サイズのイカはそのすぐ内側を北上したと考えられます。対馬海峡に入るとき、大サイズのイカは少しずつ水温が下がる経路をとりましたが、小サイズのイカはいったん済州島(韓国)に接近したあと、九州に近づいたと考えれば、経験水温の謎は解けそうです。では、本当にそう都合よく海流は流れていたのでしょうか。イカ男は広瀬直毅先生(九州大学応用力学研究所教授)にお願いして、粒子追跡実験を行ってもらいました。

2015年5月22日時点における粒子実験結果(Yamaguchi et al. 2019)

左は大サイズのイカを模した粒子をある条件で海流に沿って流したときのシミュレーションです。予想どおり、天草海からゆっくりと五島列島の西岸に沿って北上していく粒子が見られます。右の小サイズのシミュレーションでは、先頭の粒子がいったん済州島に接近しからて唐津沖に向かう様子が分かります。つまり、粒子追跡実験の結果はイカ男の推定を支持してくれました。

要するに、大サイズのイカは、天草海で「道草」をしたために唐津沖に着くのが遅れ、日齢がたって大きいのです。しかも、天草海に入り込むには、なるべく黒潮の近くを北上しなければなりません。一方、小サイズのイカは、黒潮から分かれて対馬暖流となる海流にのって大サイズのイカより早くやってきます。だから、若くて小さいのです。そして、どちらの群れも集魚灯の灯りに誘われて漁船のまわりに集まり、いっしょに釣られることになったのでしょう。

大小サイズのケンサキイカが一ひと晩に釣れる理由には、この他にも、東シナ海南部(台湾北部)で秋と春に比較的長い期間、産卵が行われていることがあげられます(Wang et al. 2008)。というわけで、群れの謎は解けたのですが、イカ男は粒子追跡実験の結果を見ているうちに、ケンサキイカに残されていた他のいくつかの謎を解くカギも得たのでした。それは、、、次のブログまでお待ちください。

  • Yamaguchi T, Takayama K, Hirose N, Matsuyama M. Migratory routes of different sized swordtip squid (Uroteuthis edulis) caught in the Tsushima Strait. Fisheries Research 209, 24–31, 2019.
  • Wang K, Liao C, Lee K. Population and maturation dynamics of the swordtip squid (Photololigo edulis) in the southern East China Sea. Fisheries Research, 90, 178–186, 2008.

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