9. 変化する対馬暖流

先日(2022年5月27日)放送されたNHK福岡の「ロクいち!福岡」というニュース番組の情報コーナーで、福岡県沿岸でのケンサキイカの不漁について、インタビューを受けました。イカ男はここ数年、現場から離れているので、不漁がどのくらい深刻なのかはよく把握していませんでしたし、なにが原因で漁獲量が減っているのかはっきり答えられるだけの情報は持ち合わせていなかったのですが、近年日本海での対馬暖流の流れ方に変化が起こっていることは分かっていたので、そのことをお話しました。

     対馬暖流の3分枝

 

対馬暖流は、東シナ海北部から対馬海峡を通過後、おおよそ3つの分枝に分かれて、日本海を北上するといわれています。つまり、本州沿岸にそって北上する第1分枝、日本海の真ん中(大和堆周辺)を横切る第2分枝、そして朝鮮半島の東を北上する第3分枝です。イカ男の研究によると、少なくとも2010年から2014年まではこの3つの分枝は安定して流れていたのですが、2015年以降は毎年分枝間のバランスが変化しています。

粒子追跡実験の結果(各年3月1日に✖点30m深から1万個の粒子を流した場合、8月1日時点における粒子の分布)

 

番組ではこの変化について、2019年から3年間の粒子追跡実験の結果を示して説明しました。ここで注目すべきは2020年です。対馬海峡から3月1日に流した粒子が8月1日時点では青森県沿岸に多く流れ着いています。実は、この年の夏、青森県日本海側の定置網には多くのケンサキイカが入網し、当地ではちょっとしたニュースになりました。

東奥日報(2020年9月25日付け、記事の「本県」は青森県)

 

おそらく、ケンサキイカは毎年のように対馬海峡を通過して日本海へ流れているはずですが、海流によって広く分散してしまって、人間が利用できない状態で他の生物の餌になっているのでしょう。しかし2020年は例外的に、青森県の沿岸に向かうハイウェイのような流れが形成されたのだと思います。

2020年7月下旬の50m深の水温と海流気象庁HP

 

水産関係の人のなかには、沖で水温が急に変わる線状の海域を「水温フロント」とよんで、そこに漁場が形成された場合、魚がその水温帯を好むからだと説明しますが、イカ男はそう考えません。北半球では、海流は相対的に水温の高い海域を右手にして流れます。そして、水温の変化が大きいほど、海流は速く流れます。したがって、魚がその水温を好んだというより、その海流にのって移動してきたと考える方が合理的です。そもそも、たいていの海域では水深が深くなれば水温は低くなるので、魚に好みの水温があれば、その水深に移動すればいいだけの話です。

風と海流の発生(右図が海流)

 

このように考えると、イカや魚は海流に依存して移動することが分かりますし、海流が海水温の分布によって変化することも分かります。海の温暖化が話題になって久しいですが、問題なのは、海水温の上昇が均一ではなく、海域によってバラつきがあるということです。毎年のようにある海域、ある海域でバラバラに水温が高くなっていたら、海流は毎年違って流れることになります。これでは、長年蓄積した漁業者さんの経験はじゅうぶんに活かされません。特にケンサキイカのように活魚として高価なイカを釣る漁業は、ひと晩で行って帰ってこなければならないので、遠くまで出られませんし、漁場を探索する時間もありません。それに最近では燃油が高騰しています。このあたりに近年の漁獲量減少の理由があるのではないでしょうか。イカ男は現在、海流の研究を漁場探索に利用する研究を進めています。現場で役に立つ日が来ることを願うばかりです。

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