2. 日本、ただいま沈没中

これまでみたドラマや映画のうち、もっとも記憶にのこっているのは1974年(昭和49年)に放送された『日本沈没』です。その当時、イカ男は小学3年生でした。地球の構造や日本の社会について、どれほど理解していたかはわかりませんが、とても恐ろしく感じながらも、毎週日曜日を心待ちにしていたことをおぼえています。特に、異端の研究者田所博士が「科学者にとってもっとも必要なことは、するどい直観と、ゆたかなイマジネーションだ」という言葉は、その後イカ男の座右の銘になりました。また、番組内でしばしば流れた「兎追いし、彼の山♪」という『故郷』のフレーズは、子ども心にも日本の国土に対する強い愛着を植えつけました。

 

近い将来日本に巨大な地震が起こることは事実だとしても、短期間に国土が消滅してしまうことはもちろんフィクションです。しかし、日本人がこれまで利用してきた海の範囲が縮小するということはあり得ることですし、実際に東シナ海や日本海で進行していることです。

 

もっとも分かりやすい例は尖閣諸島周辺の海域です。現在では、魚釣島の周辺に中国海警局の巡視船が集まり、それを遠巻きに海上保安庁の船が領海侵犯を抗議、そして、その外側で日本漁船が細々と操業しているという話です。すでに、優良漁場だった東シナ海大陸棚の縁辺部(黒潮の湧昇流海域)は、多数の中国まき網漁船団に占拠され、また、天草海沖でも日中中間線ギリギリまでほぼ独占されています(佐々木2021)。小規模な日本の漁船は、恐ろしくて漁場に入れないそうです。九州や本州の沿岸で漁獲される水産物の多くは、これらの海域を通過して来遊するわけですから、日本の漁獲量が減るのも当然です。

最近では、北朝鮮がたびたび弾道ミサイルを発射し、日本のEEZ(排他的経済水域)周辺に落下させています。実質的な被害がないのはさいわいですが、ミサイルが発射されるたびに、国は都道府県に通報を出します。通報を受けた自治体の関係部署は当該海域で操業している漁船がいないかどうかを漁協等に問い合わせ、全員の安否を確認しなければなりません。この作業に費やす行政コストはけっこう大きいですし、連絡を受けた漁業関係者も事の大きさをそのたびに思い知らされることになります。そのうちに、大和堆をふくむEEZの境界付近には近づかないようになるかもしれません。いっそ沖合へ行くこともためらわれるようになるかもしれません。

 

遠洋や沖合の漁業活動は経済や軍事を含めた国力を背景にして行われる、とイカ男は考えます。これが正しいとすれば、日本のGDP(国内総生産)が他国に比べて減少していることが漁場縮小の原因になっている可能性が高い。国防費がGDPの1%だったとしても、GDP自体が増えていれば、使える金額も増えるので、中国や北朝鮮の軍事力にもそれなりの対応ができたからです。

 

GDPが30年以上横ばいで、これから増加する見通しもない現状は、まさに「日本沈没中」。あれから50年近くたって、こんな経験をすることになろうとは、まったく予想だにしませんでした。

  • 小松左京(2020)「日本沈没 上・下」角川文庫
  • 佐々木貴文(2021)「東シナ海 漁民たちの国境紛争」株式会社KADOKAWA

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