6. 海のものは海へ

唐突ですが、地図は「地球表面の一部または全部を縮小あるいは変形し、 記号・文字 などを用いて表した図」とされています。の上にを描いているのですね。

佐賀県武雄市山内町三間坂周辺(Googleマップ)

といえば、ゲシュタルト心理学では、ある物が他の物を背景として全体の中から浮き上がって明瞭に知覚されるとき、前者をといい、背景に退く物をというそうです。例えば、下の絵であれば、白い部分をと見たときに黒い部分はとなり見えなくなり、盃が現れます。逆の場合は、見つめあう二人がみえてきます。つまり、意識が向いた方が主役になり、もう片方は黒子のような存在になってしまうのですね。しかし、黒い部分と白い部分は同時に存在しないとこの形状を保つことはできません。二つの要素は切っても切れない関係なのです。なかなか奥が深そうです。

ルビンの盃

さて、これを海に当てはめて考えてみましょう。海にはもちろん海水が大量にあって、魚やイカなどの生物もたくさんいます。海洋学者は主に海水の動きを研究し、生物学者は生物の生態などを研究します。生物学者は生物の特性を調べて種間の関係を推測し、生態系の概念を構築しました。ところが、イカ男が見るかぎり、海という大きな絵の中から、生態系というを浮き上がらせた結果、海そのものが背景に後退し、生態系が過大に評価されているような気がします。動物プランクトンが動物プランクトンを捕食するという単純な行動にも、海水の動きが介在しています。植物プランクトンが光合成をするためには、海水を通ってやってくる日光や、海水中に含まれる栄養が必要です。その他、微妙なバランスで成り立つ食物連鎖も一朝一夕でできたものではなく、動物プランクトンが生まれた遠い昔から連続的に絶え間なく試行錯誤した結果です。移動や再生産のメカニズムも同様ですね。なので、スナップショット的な分析で全体を理解することはとうてい不可能です。物理で言うと、時間変数tがない方程式のようです。さらに、としての生態系は、海というがあってこそ成り立つはずです。座標系は地球ではなく、海です。人間の生活が地球の動き(自転や公転)とともに成り立っているのと同様に、生態系は海の動きとともに成り立っているのです。であれば、座標系の変換も必要ですね。

海洋生態系MH21-S

私たちは地図をみるとき、たいていを情報として利用します。インターネットの地図では、求める情報に応じて、表示するを変更することができますし、追加することもできます。簡略された路線図などはもはやがなくて、そのものです。生物学でよく使われる生態系の概念図はまさにこの種のものです。これを最初に考えた研究者はおそらく陸の生態系との違いをよく理解していたはずですが、として教科書に掲載されたとたん、もはや「死んだ」生態系概念図となって、ゾンビのごとく業界内を徘徊しだします。イカ男は、この乾燥しきった生態系概念図をどうやって海に戻して生き返らせるかを今考えているところです。それには、やっぱり海洋分野との学際的な研究が必要ですね。

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