21. 旅は続くよ、どこまでも
イカ男のブログをここまで読んだ方は、ケンサキイカに関する知識をかなりたくわえたと思います。そこで、いよいよ核心とも言うべき、漁獲量減少の原因について考察していきましょう。と、その前に、もう一つ、はっきりさせておかなければならないことがありました。それは、東シナ海南部(台湾北部海域)での再生産構造です。日本周辺で漁獲されるケンサキイカの多くは、東シナ海南部から海流によって移動してくると結論しましたが、さて、その親はどこからやってくるのでしょうか。以前、日本に流されてきたイカが再び戻ることはないとお話ししました。
東シナ海南部でふ化したケンサキイカのすべてが日本へ流されるわけではありません。台湾の東西には台湾暖流と黒潮が流れていますが、その間には流れの淀みのような海域ができていて、多くの個体がそこで成長します。実際、夏から秋にかけて、東シナ海大陸棚縁辺の南部から中部ではさかんに漁獲されています。特に秋は、基隆(キールン)から出港した台湾のイカ釣り船が台湾北部沿岸で多数操業します。
台湾北部で秋に漁獲されるケンサキイカは大型の成熟群で、多くの卵塊を海底に産み付けていることが確認されています。日本周辺で秋に漁獲されるブドウイカが未成熟であるのとは正反対ですね。さらに、面白いことには、この海域では冬から春にも成熟群が現れます。ただし、秋の成熟群とは異なり、サイズが小さいようです。つまり、小型で成熟という特徴をもち、これは長崎県の茂木湾で見られたケンサキイカと同じです。
台湾の研究者は、これらのイカについて、秋の大型成熟群は水温が高い夏に成長したため、大きくなったのだろう、春の小型成熟群は水温が低い冬に成長したため、小さいのだろうと、考察しています(Wang et al. 2008)。しかし、イカ男の考えは違います。春の小型成熟群は、温かい海域で成長したから、小型でも成熟しているのです。なので、冬であっても、東シナ海の夏の水温よりも高い海域で成長したと考えられます。その海域はどこでしょうか。地図をみると、台湾の南にはフィリピン諸島が位置し、その西には南シナ海、東にはフィリピン海があります。どちらの海域であっても、ケンサキイカが生息している可能性はあります。つまり、東シナ海のケンサキイカの故郷が前者であれば台湾暖流によって、後者であれば黒潮によって運ばれたことになります。
ここでさらに面白い事実があります。冬から春にかけて台湾暖流が弱くなるということです。その結果、この時期にかぎって黒潮が台湾北部海域で大陸棚に乗り上げるような格好になります。つまり、南方のケンサキイカが海流によって台湾北部海域に運ばれるとしたら、黒潮によってフィリピン海からの可能性が高いということです。
ここまではまさにイカ男の妄想ですが、はたしてこれを支持する証拠はあるのでしょうか。調査海域はついに、東シナ海から南方の海域へ広がっていくことになりました。
- Wang K, Liao C, Lee K. Population and maturation dynamics of the swordtip squid (Photololigo edulis) in the southern East China Sea. Fisheries Research, 90, 178–186, 2008.
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