27. 漁獲量減少の原因 その2 と大胆将来予想
前回のブログでは、平成時代に起こった漁獲量減少の原因について説明しました。今回は、令和に入ってから起こった漁獲量減少を考えていきます。ここで減少したのは主にブドウイカ(秋に現れるケンサキイカの季変異型)でした。漁獲量が低迷していた平成時代後半でも安定して漁獲されていたので、ケンサキイカの旬はむしろ秋だ、という勢いで宣伝を始めていたころです。なので、漁業者関係者だけでなく、各県の研究担当者もパニックに陥るほどでした。さらに、秋のイカの子どもが次の年の春や夏のイカになると信じていた研究者は、翌年はさらに深刻な不漁になるに違いないと恐怖しましたが、実際はそうはならず、少し安堵したようです。イカ男のブログを読んできた皆さんは、もちろんこの理由が分かりますよね。分からない方は復習してみてください。
ブドウイカの特にひどい不漁は2019年(令和元年)でしたが、この年の夏から秋の対馬海峡と日本海の海流はそれまでと違っていて、対馬の北東海域に渦がうまく形成されなかった可能性があり、それによってある程度は説明がつきました。しかし、ブドウイカの不漁はその後も回復していません。この原因は、これまでイカ男が行ってきた海洋数値モデルを用いた粒子追跡実験の設定では説明できない事象です。
では、ケンサキイカの資源そのものが急激に減少したのかというと、それも違うようです。なぜなら、比較的北の海域でケンサキイカの漁獲が数多く報告されているからです。仙台湾では2017年頃から小型のケンサキイカが安定的に漁獲されていますし、2020年には青森県の日本海側で定置網に大量入網がありました。また、最近では岩手県の沿岸でも遊漁によってケンサキイカが釣れるそうです。どうやらケンサキイカも、他の暖流系の魚種(ブリやマイワシ、シイラ、フグ類など)と同様に、北へ分布を広げているようです。これらは黒潮や対馬暖流などの海流によって運ばれているはずですが、その海流が以前に比べて速くなったのか、経路が変化したのか、まだはっきりと分かりません。つまり、現在の漁法では漁獲できない小さいサイズで通り過ぎているかもしれませんし、これまで漁場だった海域を迂回して通過している可能性もあります。さらに、ケンサキイカの場合は東シナ海南部(台湾北部沖)から流れてきますので、九州の南西部沖で太平洋へ向かう群と対馬海峡へ向かう群が分かれることになります。この割合がどう変化しているかも気になるところです。また、対馬海峡へ向かった群も、西水道(朝鮮半島と対馬の間)を通過するか、東水道を通過するかによって、日本の沿岸にやってくる数量も変わります。
ここでイカ男が大胆すぎる予想をたてることにします。仮定は、北西太平洋の水温上昇のため、日本沿岸を流れている黒潮の勢力が増加している、です。
黒潮の勢力が強いと、東シナ海南部(台湾北部沖)から黒潮にのったケンサキイカは九州にたどり着くかなり手前から東進し、トカラ海峡をとおって黒潮本流にのって太平洋側へ向かいます(仙台湾や三陸沿岸での漁獲が増えるでしょう)。残りは北進して、一部は天草海に留まったり留まらなかったりしてから、大隅海峡を通過し、黒潮内側に沿って太平洋沿岸を北上します(豊後水道や駿河湾、相模湾、内房などでの漁獲も増えるでしょう)。対馬暖流は黒潮の一部が日本海へ流れ込むことによって構成されていますので、その勢力も以前より強くなります。北進した残りのケンサキイカのうち、天草海で足止めされる数はこれまでより減少し、対馬東水道や山陰沿岸で春や夏に漁獲される大型個体が減り、全体的に中型化するでしょう。対馬海峡へまっすぐ北上した群はこれまでより多くが西水道を通過することになります。西水道を通過した場合、東水道を通過した場合よりも対馬北東海域の渦に捕捉される可能性が低くなるため、ブドウイカは減ることになります。ただし、西水道を通過してもすぐに斃死はせず、日本海全体に拡散していくので、条件がよければ、青森県や北海道南西部の沿岸で漁獲されるはずです。
黒潮の勢力がこのまま維持または増加するかぎり、この傾向が続くのではないかとイカ男は考えます。
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