6. デプレの日本!

最近は急に物価が上がっていますね。イカ男が住んでいる地域は電気代がまだ据え置かれているので、それほどではないのですが、値上がりしている地域は大変だと思います。これまでずっとデフレ生活をしていたので、インフレは久しぶりです。

 

実際に政府は、基本的に年率2%程度のインフレを目標にしています。インフレでは物価が上昇するのに、なぜ政府は2%インフレを目標にしているのでしょうか。

 

たしかにインフレだと結果的に物価が上昇しますが、インフレの基本的な要因は、需要が供給を上回ることです。つまり、欲しい人がたくさんいるのに対して、モノが少ないという状況が生じるのですね。このような状況ならば、企業はひとを雇ったり、設備投資をしたりして、生産能力を上げ、供給量を増やします。その増加の割合が年率2%くらいならば、いまの日本の潜在能力からすれば十分に可能と政府はみているわけです。このような状況が継続すれば、日本の国力が成長していき、対外的にも強くなることができます。

 

ただし、現在の日本が経験しているインフレは、輸入原材料の高騰にともなう物価上昇(コスト・プッシュ型)で、需要増加にともなう物価上昇(デマンド・プル型)ではありません。前者は「悪いインフレ」とも呼ばれ、場合によってはより悪質なスタグフレーション(不況下のインフレ)に陥るおそれがあります。スタグフレーションになるとこれを脱出するのが極めて困難になるといわれています。日本では戦前の昭和恐慌、英米では1970年代から1980年代がそれに該当します。結局、日本はだらだらと戦争にのめり込むことになり、英米ではサッチャー首相とレーガン大統領がそれぞれサッチャリズムとレーガノミクスと呼ばれる経済政策を実施し、現在に続く新自由主義経済への流れをつくりました。その結果、経済の主流は、生産や販売、消費などで構成される実体経済から金利や利益などによる金融経済へと大きく変化することになりました。

 

閑話休題。「良いインフレ」が成長促進の契機なのであれば、この30年間物価がほとんど変わらなかった日本は、国力が成長しなかったことになります。本当でしょうか。日本のなかでじっと生活していた頃には分からなかったのですが、コロナ禍がいくらか収まって外国と比べてみると、やはり日本の力はかなり弱っているようです。

 

需要が供給を上回るインフレの高圧経済において、国は需給ギャップを埋めるために生産性を向上させる必要があります。政府は技術革新の手助けをして、企業は機械設備などへの投資をし、労働者は日々改善の努力をしなければなりません。多くの国ではここ30年間、日本が高度経済成長期に経験したような生き馬の目を抜く激しい競争の時期を過ごしていたのです。

 

日本は1990年代前半バブルが崩壊しても安定的に世界第2位の経済大国で、アジアでは圧倒的に優位な立場でした。人々が簡単に株で儲けることはできなくなりましたが、特にあくせく働くこともありませんでした。しかし就職氷河期が訪れて、新しく職を探すのがだんだんと難しくなり、すでに正規の職をもっている人は、組織で生き残ることだけを目的にしました。特に何かをやって失敗するよりも、何もしないほうがいいと考えるようになりました。そうやって管理職になった人々はもはや何もできなくなり、ひたすら定年を待つようになりました。

 

もし、このストーリーにある種の妥当性あるのであれば、1980年代から始まったいわゆるゆとり教育との親和性が高いとおもわれます。また、人口減少にともなる成熟社会という概念とも重なります。まるでこの国の人々は、いま存在する国民をもって日本国の在り方を規定できると考えているかのようです。これは現存国民中心主義の歴史観です。つまり、「国民」という近代的自我の誕生が明治維新の時で、勉学と体育に励んだのが明治大正期、やんちゃだった昭和前期、しっかり更生した昭和中期、そして成熟へと向かう昭和後期から平成期。もう十分に生きたので、令和期で死んでかまわないような歴史観ですね。つまり、自分の死(または自分たちの世代の死)=日本の終焉!

 

左翼的性格の強い学者や知識人、たとえば上野千鶴子氏(東京大学名誉教授)や斎藤幸平氏(東京大学准教授)などの脱成長論は、アカデミックな理論としては容認されても、現実世界で貧しい生活にあえいでいる人にとっては、世をはかなむ殿上人の歌詠みにしか解せず、若者には一利もありません。

 

デフレとは収縮(deflation)のことで、経済用語としては単に通貨収縮や物価下落といった現象を示すだけです。しかし、ネガティブな不景気や失業増加は、英語でdepressionと表現され、たとえば1929年の世界大恐慌はthe Great Depressionといわれます。このdepressionは鬱症状という意味も持ち、いまの日本の状態はまさにdepressionといえます。つまり、日本はデフレというよりデプレなのですね。

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