30. 予想が当たってしまったかも・・・

先日、韓国で「ヤリイカ釣り大会」が開催され、日本人の女性が優勝したというインターネット記事をみつけました。ここでヤリイカというのは、標準和名のヤリイカ(Heterololigo bleekeri)ではなく、ケンサキイカ(Uroteuthis edulisのことだとおもいます。

韓国で開催されたヤリイカ釣り大会のポスター

 

イカ釣り博士として有名なTさんに訊いたところ、6月現在、チェジュ島周辺ではケンサキイカがよく釣れているということでした。イカ釣り大会が開かれたのは、チェジュ島よりももっと北東のプサンに近いリアス式の入り組んだ沿岸部ですが、水深15mで水温は17℃(6月16日現在)、十分にケンサキイカの生存範囲内です。

対馬海峡の水温分布(2023年6月17日、15m深、DREAMS_M)

 

これまで、韓国のイカ類漁獲はスルメイカやコウイカ類が主体で、ケンサキイカはほとんど漁獲されないと勝手に思い込んでいたのですが、上のような情報をきくと考えなおさなければなりません。6月2日の人工衛星夜間画像にはプサン沿岸海域には漁船の灯りが多数確認できます。九州北西部や山陰沖に比べるとはるかに多いようにみえます。スルメイカのシーズンには早すぎるので、イカ釣り漁船であれば、ケンサキイカを漁獲している可能性はおおいにあります。

人工衛星夜間画像(2023年6月2日、EOSDIS Worldview)

 

実際に、コンピュータシミュレーションで仮想粒子を東シナ海南部からリリースすると、黒潮で北上した粒子群の一部は対馬海峡へ向かいます。そして、対馬で東西に分かれて日本海へ移動します。ここで重要なのは、東側(東水道)を通った場合と西側(西水道)を通った場合では、その後の日本海での広がり方が異なることです。東水道を通った場合は日本列島の日本海沿岸を北上するか、日本海中央部の大和堆へ移動します。しかし、西水道を通った場合はおもに日本海の北部へと広がり、日本列島に接近することは難しくなります。

粒子追跡実験(2016年11月1日に東シナ海南部からリリース、左は5月16日、右はその2か月後)

 

これらはむしろ当たり前のことで、とくに詳しく述べることではありませんが、問題は、東シナ海から北上して来たケンサキイカの多くが昔に比べて西水道を通過するようになったのではないかということです。もともと西水道を北上する海流は、黄海からの海水や台湾暖流由来の海水、黒潮からの海水が混合して形成されていて、黒潮からの割合は東水道と比べてはるかに低いものです。ひょっとしたら、近年海洋環境の変化によって、黒潮から流入する海水の割合が上昇して、それに乗って移動してくるケンサキイカも増加した可能性があります。もし東水道から西水道へとルートをかえたケンサキイカがいたとすれば、それらは小型のイカだと考えられます。なぜなら、対馬海峡の沖合海流は東シナ海北部からかなりの速度で流れてくるため、若い個体が主体になるからです。逆に、九州西部沿岸を移動してくるケンサキイカは比較的おそい海流で運ばれてくるため、そのぶん日にちが経過して大きく成長しています。

 

小型イカが対馬海峡を通過する春から夏の期間、東水道で漁獲される小型イカが少なくなったとしてもあまり影響はないでしょう。対馬東水道で漁獲されるケンサキイカの商業的価値は、新鮮なお刺身として料理屋などで提供される点にあるからです。つまり、1杯で大皿が満たされるサイズのイカが重宝されるので、外套背長15㎝ていどではダメなのです。ところが、東水道を通過したケンサキイカの一部は、対馬の北東海域にできる渦構造にトラップされて、夏の間に成長し、秋にはブドウイカ(秋に現れるケンサキイカの季節変異型)として漁獲されるようになります。もし、ケンサキイカが西水道を通過した場合は、この渦構造にトラップされる可能性が極端に低くなります。よって、多くの小型個体が西水道を通過するようになると、秋にとれるブドウイカが減少することになります。これらは以前ブログで大胆将来予測として無謀にも書いてしまったことですが、残念ながらすでに実現してしまっているのかもしれません。

 

2019年以来、ブドウイカの漁獲量は少ない状態が続いているようです。ブドウイカの生態がイカ男の推測どおりだったとしたら、今後ブドウイカが安定的に回復する可能性はきわめて低いことになります。そして将来、夏以降は対馬海盆周辺で漁獲されたケンサキイカの刺身を韓国のウルサンやプサンで食べるようになるかもしれません。日本にとってはますます厳しい状況になりそうです。

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