17. 税は財源ではない!

政府は国民の生活を改善するために、公共の財やサービスへ財政支出をします。平たく言うと、通貨を発行して、国民に働いてもらいます。国民が自らの生活をよくするためには、政府ではなく、自分たち自身が働かなければならないのです(当たり前!)。ただし、やみくもに働いても効率が悪いので、政府が広い視野で長期的な計画を立てて、適切な働き場と時期を指示する必要があります。もちろん公共の財やサービスが整備されたからといって、それだけで国民の生活がよくなるわけではありません。人々の需要はさまざまです。個々人が欲する財やサービスを満たすためには、個別にその需要に対応しなければなりません。それに気づいた一部の人は、蓄積した資本または銀行からの借入で起業し、国民が欲する財やサービスを供給して、それに見合った額の通貨を得るでしょう。このように通貨は、需要と供給をバランスさせるための、いわば数値データとして、人々の間を行ったり来たりします。なんらかの財やサービスが生産者から消費者へ移動する時、逆方向へ移動するのがこの数値データです。その移動した数値の合計が国民総生産(GDP)になります。

 

ここで困ったことが起こります。国民が銀行から借りた通貨は銀行に返さなければならないので、たいていはひどく増えませんが(ひどく増えると、バブルになります)、政府が発行する通貨は年々確実に増えていきます。市中の通貨量が増えるとインフレになります。しかし、それよりも問題なのは、通貨が偏在してしまうこと。一部の国民が通貨を独占し、財やサービスを独占してしまうかもしれません。もし、生活必需品さえ入手できない国民が多数になると、国は不安定になり、多くの国民にとって政府は憎むべき対象になります。最悪の場合、革命がおこるかもしれません。これを防ぐためには、一度発行した通貨を適度に回収し、処分しなければなりません。しかも、多く通貨を保有する国民からは多くの通貨を、少なく保有する国民からは少なく回収する必要があります。国民国家の政府が累進課税の制度をとるのはこのためですね。

 

では、どのくらいの通貨を処分したらよいでしょうか。国に流通する通貨量をある程度一定に保つためには、新しく発行する量と同じくらいの通貨を市中から無くしたらいいですね。つまり、その金額だけ徴税したらいいのです。なので、予算の歳入額と歳出額は結果的にほぼ一致します。前年度の税金収入をつかって予算を立てたように見えるのはこのためです。しかし、本当は年度当初に、1年間の通貨発行量(歳出)と徴税額を示すべきです。そうすれば、政府の経済運営方針がはっきりします。発行量の方が多ければ景気を良くしようとしていることを、徴税額が多ければ景気を抑える意図があることを国民に示すことができます。これを知った国民は銀行からの借入計画を見直すはずなので、当初の政府方針は速やかに実体経済に反映されるでしょう。最終的には、年度終わりに補正予算で徴税額を修正すれば、完璧です。

 

ところが、現実ではまったく逆のことがおこっています。まるで予算が税収によって制限されているかのようで、政府は予算の削減(選択と集中)に必死です。これは大問題!実際、見かけ上税収で十分な次年度予算が立てられるのは、景気が良いかせいぜい普通のときだけです。なぜなら、このような場合、国民が政府の代わりに銀行からの借金で通貨量を増やしてくれるからです。それによってGDP、つまり国民所得は勝手に増えていきます。しかし、不景気になると、国民は銀行から借金をしません。当たり前です。銀行で借りた金は返さなければなりませんからね。市中銀行で一時的に創造された通貨は、決められた期限までに消さなければならない。でなければ、通貨の流通量が管理できません。通貨発行権はあくまでも政府にしかないのです。通貨が増えないまま不景気が続くと、仕事がなくなり、生活が苦しくなる国民や、長期的には国民の供給能力自体が毀損されるおそれが出てきます。これらを防ぐためには、政府が財政出動して仕事を創出し、国の隅々にまで通貨を行き渡らせなければなりません。要するに、政府は適切に財政を出動して仕事を創出し、その結果としてよりよい国民生活を実現する、そのために存在するのです。

 

もちろん、政府は通貨を過剰に発行してはいけません。なぜなら国民の供給能力には限界があるからです。お金さえ積めば、どんな量の仕事もできるわけではありませんよね。均衡ある国の発展には国民の限りある供給能力を適切に割り振る必要があります。もちろん、できるだけGDPが増加するように効率的に財政を投入すべきですが、将来甚大な被害を及ぼす可能性がある事故や災害に対応できるような公共工事も大切です。急激なインフレ懸念など、考慮することは他にも様々あるのですが、基本的に予算はその支出額(通貨発行量)の増加がGDPの増加(国の成長)と一定の正の比例関係になるよう立てるべきです。比例直線の傾きが小さかったり、まして下がったりしていたら、事業の内容を見直さなければなりません。大切なのはこの比例係数であって、通貨発行量(国債発行額)ではありません。くれぐれもお間違えなく。

 

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