19. で、どうすればいいの?

先日10月31日、NHKの「みみより! 解説」という番組で『スルメイカ不漁 回復阻む厚いカベ』が放送されました。番組のホームページには「スルメイカの不漁が深刻です。背景には、海の環境変化があるとみられ、資源量の回復には他国との連携も必要です。庶民の味を守るため、どうすればいいのか考えます」とその趣旨説明があります。今回のブログでは、イカ男の観点から少し補足を加えたいと思います。

 

たしかに、現在進行中の極端な不漁の主な原因は海の環境変化であり、資源管理には他国との連携が必要であることは間違いありません。正確には、海洋環境の変化とは対馬暖流の勢力強化、とりわけ第三分枝の強化です。このために対馬海峡でふ化した稚イカや幼イカの多くが日本海の朝鮮半島東岸を北上してしまうのでした。

 

水産庁の報告によると、2004年から北朝鮮海域で中国漁船が大規模漁業をおこなっています。では、中国が資源管理を無視して大量のスルメイカを漁獲した結果、資源が激減したのでしょうか。一時期イカ男もそう考えました。しかし、今は少し違います。たしかに全く影響がなかったとは言えないかもしれませんが、主たる原因ではなかったと思います。なぜならスルメイカの漁獲量が盛期の10%程度にまで減少しているのに対し、日本海でそれほど極端に減少している魚種が他に見当たらないからです。中国漁船は2そうびき網船なので、漁獲物はスルメイカに限らないはずです。一方、2010年代に東シナ海で中国の虎網船が大規模操業を始めたとき、日本ではアジやサバ類と同じように、ケンサキイカの漁獲量も減少しました。これはアジやサバ類、ケンサキイカの多くが台湾北部海域で生まれ、同じ海流によって日本沿岸まで来遊するからです。一方、日本海において、スルメイカに匹敵するほどの極端な資源の減少を確認できる魚種はありません。これが北朝鮮海域における過剰漁獲を資源量減少の主な原因としない理由です。

日本海における各国の排他的経済水域

 

つまり、次世代を生む親イカになるのは、北海道や大和堆の周辺、北朝鮮海域にいるスルメイカではなく、産卵場である対馬海峡に近い、対馬海盆やその周辺海域で夏を越すスルメイカです。なので、対馬海流のうち相対的に第1分枝が強すぎたり(寒冷レジーム期)、第3分枝が強すぎたりすると、越夏海域に留まる個体が減って資源が減少します。まさに現在、状況が悪化中。この変化に少しでもブレーキをかけようと思ったら、この越夏海域産卵海域を禁漁区にしなければなりません。具体的には、日韓暫定水域と対馬海峡、東シナ海大陸棚縁辺部です。逆に、太平洋側、北海道周辺、日韓暫定水域以外の日本海、黄海における漁獲はスルメイカの資源にほとんど影響を与えないと思います。ただし、スルメイカは他の水産生物の餌生物でもありますから、過剰な漁獲は他の生物資源への影響はあるはずです。資源管理には対象生物だけでなく、その生物の存在が他の生物にどのような影響を与えているかも考慮する必要があるでしょう。

スルメイカの産卵場(オレンジ色)(水産庁HP)

 

現場の資源管理には漁業調整も含まれています。資源管理は数値で生物量を管理すればそれで事足りると考えがちですが、管理するのが漁獲量となれば話が違います。漁業者にとって漁獲量の多少は死活問題だからです。ある地域(たとえば北海道)の漁業者は獲り放題だけれど、その代わり別の海域(たとえば長崎県)の漁業者は禁漁してくれでは、どれだけ計画に合理性があろうと、とうてい受け入れられる話ではありません。このような漁業者間の利害関係を調整するのが漁業調整です。なので、水産行政には漁業調整の部署があります。イカ男はこの種の部署にいたことがあるので、話合いがいかにうまくいかないかをよく知っています。これが国家間、特に日韓の話となると、それこそ大変だと思います。

 

ここでさすがNHK!「日本の漁業団体によると、韓国の漁業者も今の不漁には危機感を持っているということです。ですから、まずは韓国の政府や研究機関との間で連携を加速すべきでしょう」と、すばらしい提言をしています。イカ男も大賛成です。いきなり漁業管理の話はさすがに難しいと思いますので、まずは暫定水域の共同調査から始めたらどうでしょうか。これは日韓だからこそできることであり、日韓にしかできないことです。急がないと、間に合わないかもしれません。今こそお互いのメンツを捨てて、協力し合うときです。

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