34. 黒潮ハイウェイ

Facebookをのぞいていたら、水産研究・教育機構からケンサキイカについて、次のような投稿がありました。

「夏が最漁期で、高級イカとして知られています。活け造りは身が透明で人気があります。しかし、生態は不明な部分もあり謎の多いイカでもあります。近年は、東北太平洋で漁獲量が増加しています。写真のケンサキイカも仙台湾の調査で獲れました。」

水産研究・教育機構さんからの投稿(Facebook)

写真を見ると、左半分が小型の個体で、右側に大型の個体が並んでいます。もちろんこの比率で漁獲されているわけではないと思いますが、小型個体の割合が多いのは事実です。この小型個体の多さが対馬海峡や山陰沿岸で漁獲されるケンサキイカとの最も大きな違い。加えて、大きさの変化が連続的ではありません。対馬海峡や山陰沿岸でサンプリングすると、体長のヒストグラムはなだらかな山型を示します。もちろんこの写真をとるときに、中間的なサイズを省いた可能性はあるのですが、東太平洋で漁獲されるケンサキイカには体サイズの不連続が生じる理由が考えられます。今回はそれを説明します。

     ケンサキイカの移動経路(仮説)

イカ男は日本周辺で漁獲されるケンサキイカのほとんどは東シナ海の南部海域、特に台湾北部沖だと想定しています。大陸棚の縁辺部で産卵とふ化した場合、かなりの確率で黒潮によって流されることになります。もし、黒潮の流軸に乗ったら、トカラ海峡を東に横切り、半年もあれば楽々黒潮の北端まで達するでしょう(上の移動概念図では、いちばん右側の経路を想定。下の海流図では黄~赤の流れ)。黒潮の最大流速は4ノットとされていますが、たとえば2ノット(約3.7km/h)で移動したとしても、台湾北部沖から仙台湾までのおよそ3,000kmはわずか34日です。一方、黒潮の軸からやや西にずれた位置(黒潮内側)で流されたらどうでしょう(宮崎県や高知県に接近した経路を想定)。間違いなく格段に遅くなるはずです。到着が遅れるので、そのぶん体が大きくなっているわけです。夏に相模湾で漁獲される成熟個体はこの群れです。黒潮内側を移動してきたからこそ、湾内に入れたのです。黒潮流軸を移動する群れは、沿岸部になかなか近づけません。ところが、仙台湾や三陸は黒潮の北端なので、否応なく放り出されたのですね。写真にあるケンサキイカのサイズ差は、そのまま黒潮流域の特徴をあらわしているのかもしれません。

2024年7月中旬の海流図(気象庁HP)

 

以上のようなことを考えると、海洋生物の移動については、海流の速度を考慮しなければならないことが良くわかります。現在の状況では、仙台湾のほうが対馬海峡より台湾北部から時空間的に近い可能性があります。ちょうど、中途半端に近いより、遠距離であっても高速道路や航空便がある地域のほうが早く着けるのと同じです。

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