2. 驚くほど、予想どおり

以前住んでいた佐賀県唐津周辺には、イカの活け造りを出す店が数多くあります。主役はもちろんケンサキイカ。しかし、冬になるとどうしてもケンサキイカの漁獲が落ち込みます。そのため、代わりにアオリイカが使われることもありますし、春先の短い時期だけはヤリイカが提供されることもあります。ただ、このヤリイカというのが年々減少しており、研究用に一定数そろえるのは、ほぼ不可能に近い状況でした。佐賀県では水産業としても重要度が低く、研究者の関心を集めにくい種でもあります。

そんな中、研究用に購入したケンサキイカにヤリイカ5個体が混じっていることがあり、興味本位でその平衡石を分析してみたのです。電子プローブマイクロアナライザー (Electron Probe Micro Analyzer; EPMASr/Ca比を測定したところ、驚くほど大きな変化が現れました。最初は測定ミスだと思いましたが、すべての個体で同じパターン。これはただごとではありません。

急いでヤリイカを探し、なんとか山口県の大井湊で水揚げされた個体を入手し、さらに平衡石を分析しました。すると、8個体は佐賀の個体と同じような大きなSr/Ca比の低下を示し、残りの7個体にはほとんど変化がありませんでした。これで、Sr/Ca比の急変は“ヤリイカ固有の特徴”ではなく、自然環境に起きた大きな変化によるものであることが確実になりました。

イカ類では一般に、Sr/Ca比は水温と負の相関があることが知られています。そこで、平衡石の輪紋数から日齢を割り出し、漁獲日から逆算したところ、いずれの個体も 9月から10月の約1か月の間 にSr/Ca比の急低下が起きていることが分かりました。

平衡石のSr/Ca比変化(縦軸は正負逆)と推定月齢(唐津沖5個体と大井湊沖7個体)

 

問題は、具体的な水温変化です。ケンサキイカでは、飼育実験からSr/Ca比と水温の定量的関係を求めていました。ヤリイカのデータはありませんが、ひとまずケンサキイカの式を仮適用してみたところ、約1か月で 約7°Cもの水温上昇に相当する結果になりました。

ヤリイカはスルメイカやケンサキイカほど広範囲を移動しないと言われています。となると、佐賀県沖や山口県沖で漁獲された個体も、基本的には対馬海峡周辺で成長していたはずです。では、そんな“1か月で7°C上昇”なんて劇的な水温変化が、対馬海峡周辺に本当にあるのでしょうか?

そこで、九州大学応用力学研究所の海洋数値モデル(DREAMS)を使って調べたところ――

ありました。

済州海峡を含む朝鮮半島南岸の水深約20m以深の海域でした。

2019年9月の底層水温変化

 

まさか本当に存在していたとは、さすがのイカ男も、この一致には思わず鳥肌が立ちました。

さらに詳しい情報を集めてみると、これがまた興味深い。
その内容は――次回のブログで!

どうぞお楽しみに。

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