19. モリタクに続け!

先日1月28日、経済ジャーナリストの森永卓郎氏が癌のために逝去されました。森永氏は1年以前から病名を公表し、闘病しながらラジオやインターネット、書籍出版などを通じて精力的に情報発信をされていました。いつかこの日が来るとは覚悟しながらも、意外に元気そうな声をつい最近まで聞いていたので、正直おどろきました。

 

近年の森永氏の一番の仕事は、『ザイム真理教』ですね。財務省をカルト教団にたとえて、その構造を分かりやすく解説されました。詳しい内容は割愛しますが、イカ男がまだ若いナイーブな頃だったら、まさか日本のエリート官僚が国民をだまして無意味に税金を取り立て、国を貧しくしているはずなどなく、陰謀論に違いないと思ったでしょう。しかし、実社会でいろいろな経験を積んでいると、納得せざるを得ないことが多々ありました。しかも、経済評論家の三橋貴明氏によると、財務官僚は国民を苦しめようとして税負担を重くしているのではなく、省内で実績をあげて出世するために真面目に仕事をしているだけなのだそうです。ナチスのアイヒマンと同じです。これには思い当たることがあります。

 

以前ブログで、水産庁が行っている「我が国周辺の水産資源評価調査」には科学的に妥当でない部分があることを紹介しました。たしかに「我が国周辺(=我が国の排他的経済水域EEZ)」が調査対象なので、データはEEZ内に限られます。しかし、この不十分なデータから推定した資源量をもちいて、管理基準や漁獲量を出すのはあまりに不誠実です。実際、この事業に携わっている研究者と飲んだとき、彼は冗談半分に「もしEEZがなくなったら、我々の仕事はなくなってしまう。資源問題が解決してしまうからね」と話しました。つまり、EEZの制限なく調査・研究ができたら、今の水産資源の問題は大方解決するだろうということです。なぜ不漁の原因が解明されないのか、現場の研究者は分かっているのです。では、どうして彼らはそれを指摘しないのでしょうか。それは研究者としてのポジションを維持するためです。事業の方針に逆らえば、左遷されてしまうでしょう。そうなれば、昇給がなくなって、家族が困るかもしれません。仮に扶養家族がなくても、資源評価とは異なる別のテーマがあれば、それを研究するためにはポジションが必要です。なので、資源評価の仕事はとりあえずやっておくのです。

 

また、以前大学でイカ類の成熟ホルモンを研究していた方を思い出します。彼はその分野では評価の高い若手研究者でしたが、結婚してお子さんが複数いたためか、水産庁関係の出先機関に就職されました。6年ほど前、現場で重い海洋観測器を運んでいるのを見かけて、泣きそうな気持になりました。

 

どんなに優れた知性や技術をもった人間も最低限の経済力がなければ生きていけません。能力を生かすためには、安定的に食べていける環境が必要なのです。

 

日本国憲法第25条には

  1. すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
  2. 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

と定められています。しかし現在、パートやアルバイトなどの非正規雇用者でも年収が100万円を超えると、住民税がかかります。正規非正規に限らず103万円を超えると、住民税に加えて所得税がかかりますし、106万円以上になると、一定条件を満たした働き方をしている人には、社会保険料を払う必要が生じます。いま年収105万円でどれほど健康で文化的な生活を送れるというのでしょう。財務官僚や政治家の皆さんにはぜひ体験していただきたいものです。

 

財務省や厚生労働省(コロナ・ワクチン問題)、そして水産庁を批判するためには、その外部に出て、どんな目に合っても食べていける立場を確保しなければならないのでしょうか。内部から自発的に変わることはできないのでしょうか。残念ながら、兵庫県庁やフジテレビには内部告発を隠ぺいしようとした疑義があるようです。最恐といわれる財務省は、政治家には国税庁、新聞社には消費税の軽減税率、グローバル企業には消費税の還付金などアメとムチで言論を封殺する力をもっています。戦後、江藤淳が『閉ざされた言語空間』で論じた連合国軍総司令部(GHQ)の所業を、いま財務省が繰り返しているとしたら、「いまだ戦後」であり、「楽しい日本」など夢物語でしかありません。

 

  • 森永卓郎(2023)『ザイム真理教-それは信者8000万人の巨大カルト』フォレスト出版
  • 江藤淳(1994)『閉された言語空間-占領軍の検閲と戦後日本』(文春文庫) ‎ 文藝春秋

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