12. イカは宇宙人ではないのか?
今回はイカの長旅をささえる体の構造について、考えたいと思います。そもそもイカは、無脊椎動物のなかの軟体動物に分類されます。なので、サザエやアサリなどの貝類の仲間ということになります。少し意外かもしれませんが、コウイカには貝殻の名残である甲があったりします。防御のための貝殻を退化させ、機動力を獲得したともいえます。ケンサキイカなどのツツイカ目に至っては、わずかに軟甲(いわゆる「イカの骨」)が痕跡器官として残っているだけです。軟甲は石灰が失われているため、フニャフニャのプラスチックのようですね。このように同じ軟体動物といっても貝類とは大きく異なるので、アンモナイト(絶滅種)やオウムガイ、タコなどとあわせて、頭足類として分類されています。
一般の人がイカの絵を描くとだいたい左のようになるのですが、生物学者の場合、真ん中のように描くはずです(たぶん)。なぜなら、生物は基本的に頭が上、胴体が下を向くように描写するからです。もしヒトが頭足類だったら、右のように首のすぐ下のあたりから足が伸びていることになります。そうです、だから頭足類なのですね。さらに言うと、むき出しの内臓のまわりに逆三角形のマント(外套膜)をスカートのように巻きます。これで完全な「イカ男」の完成ですけど、首の下から海水が体に入り込んで、ちょっとスース―しそうです。
このように、イカは同じように海を泳ぎまわっている魚類に比べると、ずいぶん違った進化を辿ってきましたし、違った体の構造をしています。実際、同じ頭足類の仲間であるアンモナイトやオウムガイ、タコが海を自由に移動しているイメージはありません。
そもそも、イカの祖先は、中生代のジュラ紀(約1.6億年前)にテチス海で生まれました。このテチス海というのは、大昔の赤道周辺に位置した、大陸に囲まれ東西に浅く広がった温暖な海況に恵まれた内海性の海です。おそらく、彼らはこの穏やかな海に適応、進化し、繫栄していたのではないかとイカ男は想像します。しかし、白亜紀後期(約7000万年前)にプレートの移動にともなう大陸の離合集散が始まり、地球規模の気候変動が起こります。テチス海には外海から大量の海流が流れこみ、彼らの生活も激変しました。多くは大陸に沿って移動しましたが、一部は深い海にニッチを求めたり、変化に耐えられず死滅した種もいたのではないかと考えられます。
つまり、イカが魚類と同じように自由に海を泳ぎまわっていると考えるのは、イカが出現し進化してきた環境をみるかぎり、また頭足類というグループに属している他の生物種をみるかぎり、少し突飛なように感じます。まるで、哺乳類のムササビやモモンガを見て、彼らが鳥類のように自由に空を飛び回ると考えるのと同じです。私たちはイカの生態や生理について、もっと詳しく調べる必要がありそうですね。
- ロジャー ・ハンロン他 『世界一わかりやすいイカとタコの図鑑』 化学同人 2020年
- 横山祐典 『地球46億年気候大変動』 ブルーバックス 講談社 2018年
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