16. ブドウイカ出現

ブドウイカの名前の由来は定かではありませんが、「ぶっとい(太い)」がなまってブドウになったという説が有力で、果物のブドウとは無関係のようです。たしかに、春にとれる典型的なケンサキイカ(オス)に比べると、ぽっちゃりしているように見えます。そこで、過去多くの先輩研究者が季節ごとの漁獲物を測定して統計的に解析をしました。しかし、体長(外套背長 mantle length:ML)などの変化は連続的で、有意な差はありませんでした。このためブドウイカはケンサキイカの季節変異型と考えられ、その後実際にミトコンドリアのDNA分析で同種であることが確かめられたのです。

典型的なオスの季節変異型(左から春、夏、秋)

では、研究者は何をもってブドウイカとしているのでしょうか。残念ながら、まだ明確な基準はありません。ただ、イカ男が対馬東水道で漁獲されたケンサキイカを毎月定期的に購入して観察や測定をしていた頃は、今年もブドウイカのシーズンになったなあ、と感じる瞬間がありました。7月から8月になると、ML35cmを超えるような大型のオス個体がしだいに減ってきて、大きいオスでもML30cmくらいのサイズになります。このように春と夏で獲れる個体の最大外套背長が顕著に変化するのはオスで、メスはせいぜいML25cmくらいであまり変化しません。しかし、8月から9月になるとオスもメスも小型化し、未成熟の個体が多くなります。9月以降、サンプリング調査を続けていると、イカの体はだんだん大きくなっているのに、ぜんぜん成熟していないことに気づきます。オスであればML15㎝を超えたら成熟していても不思議ではないのに、20cm近くあってもすべて未成熟のままです。メスはオスが成熟していないと、基本的に成熟しませんので、メスももちろん未成熟です。あまり科学的な基準ではないですが、イカ男の場合、このようなときにブドウイカの出現を感じます。やがて11月を過ぎるとオスのなかに成熟する個体が見られるようになり、12月になると海域によってはメスの一部にも成熟個体が見られます。ただし、10月以降小型のケンサキイカが新たに現れることはほとんどありません。

秋が深まると、沿岸も沖合もブドウイカばかり(Yamaguchi et al. 2019)

つまり、ブドウイカとは、日本海南部から対馬海峡を中心に秋に現れるケンサキイカの季節変異型で、オスの多くとメスのほとんどが未成熟まま体成長を続ける個体群。春や夏に現れる季節群に比べると、小太りの体型をしている、とイカ男は定義したいと思います。

ここまでがブドウイカの基礎知識として、多くの研究者に受け入れられている情報です。断片的なものが多くて、これらからふ化場所や移動経路、ブドウイカの特性などを解明するのは、まるで雲をつかむような話のように思えます。そこで、イカ男はブドウイカについても、平衡石と粒子追跡実験を用いた研究方法を試してみました。その大前提は、「ブドウイカ それでもやっぱり ケンサキイカ」です。

  • Yamaguchi T, Takayama K, Hirose N, Matsuyama M. Migratory routes of different sized swordtip squid (Uroteuthis edulis) caught in the Tsushima Strait. Fisheries Research 209, 24–31, 2019.

Follow me!

16. ブドウイカ出現” に対して5件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です