2. 帰って来~いよお!

スルメイカには日本海で漁獲されるものと東日本の太平洋側で漁獲されるものがありましたね。でも、ここではとりあえず、日本海で漁獲されるスルメイカについて考えてみます。

 

日本海で漁獲されるスルメイカの多くは、前年の秋(10月~12月)に対馬海峡でふ化したと推定されています。そのスルメイカの親は、日本海から対馬海峡にやってきて、産卵したはずです。ふ化した稚イカは、もちろん対馬暖流で日本海へ運ばれたでしょう。なので、その個体も親と同様に夏の間、日本海かその周辺で成長して、また対馬海峡へ戻ってくるはずです。ここで問題なのは、それらのスルメイカはどこまで日本海を北上して対馬海峡に戻ってくるのかです。

日本周辺の主な海流概念図

日本海には対馬海峡から北海道周辺まで対馬暖流が流れていますので、それを逆向きに移動することは容易ではありません。仮に、鮭が川をさかのぼるようにスルメイカも海流にさからって泳ぐことができるとしても、引き返して戻るまでの距離が長くなればなるほど途中で力尽きる可能性が高くなります。逆に、その距離が短ければ短いほど生存率は高くなり、産卵できるチャンスは大きくなります。つまり、結果的に対馬海峡で産卵するスルメイカは、対馬海峡から近い海域で引き返した個体ほど多く、そこから遠い海域になるほど少なくなっていると考えられます。

人工衛星夜間画像(2022年9月30日、EOSDIS Worldview)

この人工衛星夜間画像は、毎年9月頃にみられる典型的な集魚灯漁船の分布をあらわしています。日本海では、朝鮮半島の南東部沖から大和堆(日本海のほぼ中央)にかけて集魚灯が分布していますね。各国EEZの範囲から、朝鮮半島に近い海域で操業しているのは韓国の漁船であることがわかります。また、大和堆周辺で操業しているのは、日本と韓国の漁船だとおもわれます。もちろん、集魚灯がないからといってスルメイカがいないわけではないでしょうが、少なくとも集魚灯付近にはいるはずです。ここでは、秋に対馬海峡で産卵するスルメイカは、おおむねこの集魚灯が示す「道」にそって朝鮮半島の南東部へ接近すると考えます。

 

9月から11月にかけて、対馬海峡の日本側(東水道)では、スルメイカではなくブドウイカが漁獲されます。これは秋に獲れるケンサキイカの季節変異型です。上の夜間画像では、対馬の南と東に漁船の灯りがみえますね。一方、対馬海峡の韓国側(西水道)ではブドウイカではなく、スルメイカが獲れます。釜山から済州島北部まで切れぎれに灯りがみえます。長崎県のイカ釣り漁業者さんによると、ブドウイカは、スルメイカが北から南下してくると、獲れなくなるということです。同じ生簀にいれておくと、スルメイカはケンサキイカを食べてしまうので、スルメイカが南下してくるとブドウイカはこわがって逃げてしまうのかもしれませんし、単に季節の進行にともなう海況の変化によって、それぞれの分布が南へシフトするだけかもしれません。いずれにしても、対馬海峡における日本のEEZ内でのスルメイカ漁業は、例年1月以降に本格化します。

 

次回は、産卵のために対馬海峡へ戻るスルメイカは、おおよそ日本海をどこまで北上しているかを考えます。

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