1. 平衡石の観察

魚津水族館の館長だった稲村修さんは著書『ほたるいかのはなし』のなかで、まだ分かっていないこととして、ホタルイカは「なぜ、日本のまわりの海域にのみ分布するのか。なぜ、産卵期にだけ接岸してくるのか。どこで産卵しているのか。その卵は再生産に役立っているのか」など多くの謎を挙げられました。その後、30年近くたって令和4年に出版された著書『魚津の自然シリーズ ホタルイカ』でも、上にあげた3つは未だ謎のままだということです。富山湾に春の訪れ告げるというホタルイカは、富山に住む人に限らず誰をも神秘的な気持ちさせる不思議な生き物だとおもいます。逆に、これほど興味深い生き物であるにも関わらず、どこで生まれてどうやって富山湾まで来るのか分からないなんて、ちょっと残念な気がします。そこで、イカ男はこの難問解決の糸口を見つけるべく、ホタルイカから平衡石を取出し、ケンサキイカやスルメイカで行ったのと同じ方法で研究をしてみようと思い立ちました。

 

研究に使ったホタルイカは、2023年2月に山陰沿岸の大陸棚で底引き網によって漁獲された外套背長約5㎝のものでした。なぜ、富山湾産ではなく山陰産の個体を使ったのかというと、その理由は追々説明します。とはいえ、ホタルイカの平衡石はケンサキイカやスルメイカに比べて圧倒的に小さく、イカの頭部から取り出すのは大変です。実体顕微鏡をのぞきながら、注意深くピンセットでつまみ出すのですが、意外に丈夫な平衡胞のなかにあるので、まずその袋状の膜を除去することが必要でした。さらに、いくら先の鋭いピンセットでも容易につまむことができません。少しでも強い力を加えると、平衡石をはじいたり壊したりします。結局、成功率は3割程度でした。それでも取り出した平衡石を歯科技工で使う樹脂に固めて、片面を研磨して顕微鏡で観察すると、核周辺にきれいな輪紋がみえました(下の写真)。とても嬉しかったです。ただし、平衡石の縁辺にいくほど輪紋はぼやけて、輪紋の数を正確に数えることは簡単ではなさそうです。弱気のようですが、輪紋の計数はプロの技術者がいるコンサルにお願いした方がいいかもしれません。

ホタルイカの平衡石

 

核部の拡大

 

  • 稲村修『ほたるいかのはなし』(1994) 魚津市教育委員会
  • 稲村修『魚津の自然シリーズ ホタルイカ』(2022) 魚津水族館

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