7. 脱ルサンチマン!

昨年2022年7月8日、安倍晋三氏が遊説中に撃たれお亡くなりになりました。安倍氏といえば、アベノミクスやアベノマスク、桜を見る会、モリカケなど今でも賛否両論のある政治家です。特に、アベノミクスはデフレを脱出するために行った乾坤一擲の経済政策で、一時期、「3本の矢」やトリクルダウンという言葉がはやりました。後者はトリクルダウン理論(trickle-down effect)のことで、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなる」という考え方です。たしかに、大もうけした人もいたようですが、こぼれ落ちたお金は少なく、かえって貧富の差が大きくなったといわれています。この理由については多くの識者がさまざまな見解を示していますが、イカ男が聞いた中で、いちばん納得できる理由をまとめたいと思います。

 

アベノミクスの目玉は、大胆な金融政策でした。おもな内容は、超短期の銀行間の貸借りの金利を実質ゼロに近づける(ゼロ金利政策)とともに、日本銀行が市中銀行の保有していた国債を買い取って大量の貨幣を供給する(買いオペレーション)こと。金利がゼロであれば、お金を借りたい人にとっては利子の負担がなくなり、とても助かります。ただ、大きな額を借りた人のお金の使い方が問題です。つまり、実体経済を対象に投資するのか、金融経済を対象に投資するのか。ここ30年でも株価は上昇していますが、金融経済では単に投資した本人と仲介した業者など少数の関係者が儲けるだけで、トリクルダウンは起こりません。トリクルダウンがおこるためには、実体経済のなかで民間企業が新規事業や生産性向上の投資を行い、雇用を増やして労働者の賃金を上げ、全体の消費量が増えることが必要です。しかし、そのような投資をする民間企業は多くありませんでした。どんなに市中銀行にお金があって利子が低くても、借りた民間企業はかならず銀行にお金を返さなければなりません。その見通しが立たないのに、借りることなどできません。無謀なリスクはとれないというのは、極めて合理的な判断です。ただ、個々の合理的な判断が日本のマクロ経済をさらに停滞させる結果になってしまいました(合成の誤謬)。

 

経済の先行きが不透明な状況で民間企業が大規模な投資をすることはありません。では、どうするか。もはや、政府が投資するしかないのです(財政政策)。政府が中長期の将来を見越して、科学技術や教育、インフラ、防災設備などに公共投資をしなければなりません。これは、昔ならエジプトのピラミッド建設、最近では世界大恐慌後の米国のニューディール政策など教科書レベルの政策です。しかし日本では、2009年から約3年間、旧民主党が政権を担ったとき、「コンクリートから人へ」をスローガンにダム建設などの公共工事を大幅に削減したのを皮切りに、財政出動一般が縮小傾向になりました。当時は一般国民にもろ手をあげて受け入れられましたが、2020年7月の熊本県川辺川流域ではダムが建設されなかったことで洪水被害が拡大し、かえって公共事業の重要性を浮き彫りにしました。実際に、老朽化した道路や橋が日本中に多数見られ、もし地震などで通行不能になった場合、どうやって救援の人員や物資を運ぶのか不安になってきます。

 

大規模な公共工事というと、土建会社だけがむやみに儲かるようなイメージがありますが、トリクルダウンを起こすためには、結局だれかが儲かり、儲かったお金を市中で使ってもらうしかありません。たとえば、土木作業員の方々が夜の街で派手に飲み食いし、いろいろな場所で散財してくれたほうが、その地域経済は活性化します。また、その会社の社長さんが貴金属や高価な時計、外国車などを購入したとしても、嫉妬してはいけません。そのような不必要に高額な商品は、お金持ちが生活必需品を買い占めるのを防ぎ、イカ男のような一般庶民の生活を守ってくれるものだからです。食糧を買い占められて、高騰したら大変ですよね。

 

ここはもう、ルサンチマン的な嫉妬感情はこらえて、金は天下の回り物という格言を理性的に受け入れようではありませんか。

 

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