14. 国が壊れる!

たとえ貧しくても皆等しい貧しさであれば耐えられるが、じぶん独りだけの貧しさに耐えることは難しい、といったことを耳にします。人間の認識に絶対的な尺度はなく、常に相対的なものなので、場合によってはわずかの差にも敏感になり、過剰な嫉妬心が生まれたりします。

 

年配の方の昔話を聞くと、終戦直後の日本はひどい食糧不足、モノ不足で、誰もが貧しく苦しい生活だったそうです。しかし、彼らの話しぶりはどこか懐かしそうで、むしろ楽しそうでもあります。いまや全てが遠い昔話になったからかもしれませんが、まわりが皆同じような困難を共有していたため、日本国民の多くが共同体の団結心によって一体化し、復興に向けて、ほんとうに希望に満ちた楽しい日々を過ごしたのかもしれません。そういった意味で、現在問題になっている貧困問題は、戦後の貧困とはまったく違う構造をもっているようです。中流階級が没落し、所得や資産に大きな格差が生じてしまいました。この格差が広がると、共同体意識は希薄になり、国民国家は崩壊します。世界史をみても、社会格差が暴動をうみ、革命に至った例は限りありません。

 

このような格差を是正する手段の一つとして税制があります。税には所得の再分配という社会保障の機能があるのです。代表的な例はもちろん累進課税です。高額所得者ほど高い割合で税金を徴収されるという制度ですね。ほかに相続税や、法人税も同じような機能があります。では、このような税制が近年どのように機能してきたかを具体的にみてみましょう。

 

まず、累進課税の最高税率の変化です。1987年(昭和62年)頃から大きく低下しているの分かります。当時イカ男は大学生でした。プロ野球選手(中日ドラゴンズ所属)だった落合博満氏の年俸が1億円を超えたことが話題になりました。しかし、落合氏はインタビューで、税金でとられるからぜんぜん残らないと答えてました。人気番組だった『ニュースステーション』(テレビ朝日系列)では、頑張って高額収入を得ているのに気の毒だ、といった落合氏に対する街中の声を紹介し、高額所得者が高額な所得をそのまま受け取ることに問題を感じていないようにイカ男には見えました。その頃はバブル景気でみな余裕があったのでしょうか。でも、今になって思えば、なぜ庶民派を売りにしていたメインキャスター久米宏氏が最高税率の引き下げを容認するような放送をしたのか不思議です。本当は彼こそがリベラルなグローバル新自由主義者の先鋒だったのかもしれません。

累進課税の最高税率の推移(HP「神の右」より)

 

さて、相続税の最高税率も法改正のたびに低下してきました。たしかに90%とか70%という超高税率では資本の蓄積はできませんね。これは戦後GHQ(連合国軍総司令部)の占領政策のひとつで、富裕層から資産を奪う目的があったと考えられます。みなが平等であっても、一人ひとりの資産が小さいと投資額が小規模になってしまい、経済の活性化が滞ります。マクロな資産形成は塩梅が難しいですね。

 

では、法人税の税率はどうでしょうか。財務省の資料をみると(法人税率の推移 財務省)、昭和62年(1987年)以降低下を続けています。累進課税の最高税率と同じですね。実はこの頃、社会主義経済国のほとんどが経済破綻の状況になり、東側の盟主だったソビエト社会主義共和国連邦は1988年から1991年にかけて内部分裂を起こします。これで西側資本主義国の政府は社会主義革命や共産主義革命を心配する必要がなくなりました。つまり、所得格差の発生について気にする必要がなくなったのです。さらに法人税については、各国が自国のグローバル企業の海外流出を防ぐため、競って税率の引き下げを行いました。日本もその理屈でたびたび税率を引き下げています。その穴埋めのためか、1989年から消費税が導入され、これまで1997年と2014年、2019年に3回引き上げられました。

 

税制はもちろん、所得税法や法人税法などの税法によって定められています。これらが国会議員の議決によって制定または改廃されることは言うまでもありません。時勢に応じて適切に改正されてしかるべきです。景気が良かった1989年以前とまったく異なった現在の経済状況の中で、なぜ今でも同じような税率の変化が続いているのでしょうか。所得の再分配機能はどこに行ってしまったのでしょうか。端的に、累進課税の最高税率と法人税を引き上げて、消費税率を引き下げれば、税収は確保したまま、格差はいくらかでも是正されるように思えます。一部の富裕層は無駄に高額なマンションを購入していますし、大企業は円安による輸出増で潤っています。特に大企業については、グローバル経済が崩壊したため、あえて海外進出する状況にありませんし、消費税還付による増収も加わり、税率引き上げを躊躇する要素はありません。ちなみに消費税還付とは、輸出品には付加できない消費税分を国から還付をうける制度です。実質的に中小企業から徴収した消費税分を大企業にまわしている可能性があります。

 

国会議員は一部の富裕層や大企業の利益にしか関心がないのでしょうか。彼らは誰からの信任をうけて、国会議員をしているのでしょうか。イカ男には、歴史の教科書に記述されている大国の末期や日本の戦前の様子を目の前で見ているような気がします。今一度、税金はなんのためにあるのか、主権者である日本国民全員が再確認する必要があります。

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