11. 釜山からの緊急リポート!

4月1日に釜山にある国立水産科学院(National Institute of Fisheries Science)を訪問しました。ここは日本の水産研究所にあたる機関です。海洋学の研究セミナーに参加したところ、たまたま水産資源の担当をしているキム博士とお話しする機会があったので、黄海で漁獲されるスルメイカについて教えてもらいました。キム博士は、国立釜慶大学校(Pukyong National University)在学中に対馬海峡の韓国海域でスルメイカのふ化について調査・研究(Kim et al. 2014)をおこない、長崎大学との共同研究で日本海域でも調査したことがあるとのことでした。2018年から小規模ながら韓国海域における稚イカの分布調査を再開し、まだ若いですが、韓国では今いちばんスルメイカについて詳しい方だと思います。

 

キム博士によると、黄海とその他の海域におけるスルメイカの漁獲量はほぼ半々の状態になっているそうです。黄海でのイカ漁業の主体は釣りではなく、近海網とよばれる流し刺網漁業とのこと。これは、以前イカ男がブログで紹介した漁業者情報を裏づけるものでした。「5年くらい前に刺網の目合いを調整したところ、ちょうどイカが刺さる目合いを発見した」という話は正直半信半疑でしたが、本当だったのです。近海網は2020年度後の漁期枠後半からTAC(Total allowable catch)規制の対象になり漁獲可能量の上限が定められています。また、漁場は黄海と対馬海峡の海域に限られ、4月と5月は禁漁(もっとも漁獲はほとんど7~10月ですが)、網を水深15m以下に設定することも禁止。スルメイカの漁獲量総量が減少しているなか、黄海で漁獲されるスルメイカを守るために韓国も相応に努力しているようでした。しかし、黄海は韓国だけでなく、中国にもスルメイカの漁獲可能な海域があります。両国の境は南北帯状の入会い海域になっていますが、近海網漁業者はそこまでは出漁せず、せいぜい東経125度付近までが漁場。しかし、釣りとは違って、昼間に操業する網漁業であるため、人工衛星夜間画像では確認できないとのことでした。

 

翌日はほぼ10年ぶりにチャガルチ市場に行って、スルメイカを探してみました。しかし、韓国産はごく僅かで、中国産や南米産がほとんどでした。南米産はもちろんスルメイカではありませんが、中国産がスルメイカかどうかも遺伝子鑑定しなければ分かりません。

中国産の「スルメイカ」

イカ男が昨年9月に韓国の日本海側にある江陵(カンヌン)市でスルメイカのサンプリングをしたことは以前ブログで紹介しましたが、実は鮮魚店で台湾から輸入したという「スルメイカ」が売られていたのです。日本海で漁獲されるスルメイカがあまりにも少ないため、やむなく緊急で輸入したとのこと。たしかに台湾でもたまにスルメイカが獲れることがあります。実際にイカ男も昨年の3月に基隆市で30個体程度のケンサキイカをランダムにサンプリングしたとき、1個体だけ混じっているのを発見しました。その時イカ男は自分はなんて幸運なんだ!と喜んだのですが、そもそも私はそれほど善行を積んだ人間ではありません(単なるイカ男です)。ひょっとしたら、これが当たり前の確率だったのか?または、スルメイカはもっと多く混じってもおかしくないほどいたのか(つまり不運だった!)?

 

いずれにしても、今回見かけた中国産イカも併せて、もはや国内産だけではとうてい需要をまかなえない状況です。市場に出回っている「スルメイカ」はどこまでスルメイカなのか、研究者も無関心ではいられないとおもいます。

 

  • Jung Jin Kim et al.  (2014)  Seasonal Characteristics of Todarodes pacificus Paralarval Distribution in the Northern East China Sea. Kor J Fish Aquat Sci 47(1), 059-071

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