5. 黄海からの緊急リポート!

日本の関係者にはあまり知られていませんが、スルメイカは黄海にも生息しています。黄海は、朝鮮半島の韓国と中国本土との間にある水深の浅い海です。以前から韓国では、日本海でスルメイカが獲れないときは、黄海で獲れるなどという話があったようで、実際に最近では黄海での漁獲量が急に増えているということです。この情報の真偽を確かめるために、イカ男は、コロナ禍による渡航制限が緩和された12月中旬韓国に渡ったので、今回はその緊急リポートを決行します。

黄海の韓国沿岸(Googlemap)

仁川国際空港に降り立って、まずは仁川総合魚市場を訪問。キムチ用とおもわれるスルメイカが多数ならんでいます。よく見ると、新鮮なイカと少し白くなったイカがあります。店の人に訊くと、新鮮なイカは最近日本海で獲れたもので、白くなったイカは夏に黄海沿岸で獲って冷凍保存しておいたものということでした。鮮魚の方が高いのは言うまでもありません。黄海沿岸のイカは主に泰安や群山の漁港に水揚げされるという情報を入手し、泰安へ移動しました。

仁川総合市場で売られていたスルメイカ(右の白いイカが黄海産)

北からの寒風が吹きすさぶ泰安の漁港には多くのトロール船が停泊し、狭い道路をへだてて魚屋や食堂が立ち並んでいます。イカ漁をするかたわら小売り販売もしている漁師さんに詳しい話を訊くことができました。「最近黄海でスルメイカが急に獲れだしたのは資源が増えたからではなく、漁具が改善されたから。トロールで小さいイカが入るのは分かっていたが、それより大きいイカは釣りでしかとっていなかった。ところが、5年くらい前に刺網の目合いを調整したところ、ちょうどイカが刺さる目合いを発見した」ということでした。なんとなんと、いま韓国が黄海で漁獲しているスルメイカの約8割が刺網で漁獲されているらしいのです。まさにイカ刺し。これは黄海の韓国沿岸海域では潮汐による干満の差が大きく、その流れによって往復するイカが垂直にはった刺網にビシビシ刺さってくる、というわけです。

泰安の漁港

黄海のスルメイカは毎年7月頃からごく沿岸のトロールで15㎝くらい(外套背長)の小型が獲れだし、8月から9月には20㎝くらいに成長した中型が少し沖の刺網で、秋になると大型がさらに沖の釣りで獲れるようになるそうです。季節が進むにつれて沿岸域から水温が下がるので、イカ群はさらに沖に移り、中国のEEZ(排他的経済水域)へ消えていくことになります。

2022年11月15日、22m深水温海流分布図(左、DREAMS_M)と人工衛星夜間画像(EOSDIS Worldview)

噂をききつけて済州島付近の漁師までやってくるので、資源枯渇を心配した韓国当局が2022年から漁獲量の上限を設定したらしいのですが、組合をとおした漁獲物でしか漁獲量を把握できないため、効果があるかどうか分からない、とその漁師さんは話してくれました。どこの国でも事情は似たり寄ったりですね。

 

ハイテクが進んだはずの現代にもかかわらず、簡単な漁具の改善によってこれほど劇的に漁獲が増えるとは大いに驚きでした。また、我々の知らないところに潜在的な資源が潜んでいる可能性とともに、それを知らないまま資源管理を行ってしまうことへの不安、そして、その存在を知ってしまうことによって最もクリティカルな資源を枯渇させてしまう恐れなどで、イカ男はすっかり考え込んでしまいました。

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