9. 日本人とは?

毎年お盆の時期になると、日本とは、日本人とは、といったテレビ特集をみかけます。現在は経済が不調なので、そのような観念的な話題で頭を悩ませる余裕はないかもしれませんが、国民間の収入格差が拡大し、万民の万民に対する不信や嫉妬、あるいは無関心が広がるなか、むしろその重要性は高まっているとおもいます。

 

日本人観としては、たとえば、まわりの空気を読み同調性が高く、出る杭は打ち、心配性で自己主張が弱く、集団行動を好むというのが典型ですね。これらは、昭和時代の戦争や高度経済成長時の日本人の特徴を説明するのにしばしば使われます。イカ男は外国の人々の文化や気質というのをあまり知らないのですが、言われてみれば確かにそうかなあと思うところがあります。たいがいはマイナスイメージで使われることが多いので、議論としては、今後はこれらと逆の性向を身につけ外国人のような行動をとる必要があるといった教訓が導かれます。たしかに、グローバル化が進み、外国の人々と対等に競い合って生きぬくためには、日本人はもっと対人関係に強くならなければならないのでしょう。しかし、日本人にとって、対人関係よりもっと厳しい対応を迫られる対象がこの国にはありました。それをイカ男が明確に自覚したのは2011年3月でした。

 

それはもちろん東日本大震災です。巨大地震と津波、そしてその後に発生した原発事故、多くの人命が失われました。確かに1995年1月にも阪神・淡路大震災が起こりましたが、イカ男のなかで両者が徹底的に異なったのは、中継映像の凄まじさとともに、東日本大震災が予め予想された地震であったことです。当時「想定外」などと言われましたが、阪神・淡路大震災のあとNHKが2010年に放送した『MEGAQUAKE 巨大地震』シリーズで、仙台内陸部でボーリング調査を行ったところ、1000年前の大津波を記録する地層が出てきた事実をもとに、次に起こる巨大地震の候補として東北沖があげられたいたことをイカ男はしっかりと記憶しています。つまり、少なくとも太平洋側のプレート境界では、長短の差こそあれ周期的に巨大な地震が確実に発生するのです。逆に言えば、1946年以降の日本は、たまたまその周期の間期にあたっていただけということでした。

 

さて、上記に二つの大地震のあと、他国の人々を驚かせたのは日本人の態度でした。突然悲惨な境遇にみまわれた被災者が、整然と列をつくって飲料水や食糧、医薬品などの配給をまっている様子です。我々日本人からすれば、しごく当然ですが、なるほど他国の被災地の報道などをみると、しばしば強盗や略奪が発生しています。日本では被災した誰もが生き残れるようお互いに助け合い、励まし合いながら復興に向けて頑張ります。東日本大震災によって東京で大量の帰宅難民が発生したときも、東京のヒトってこんなに親切だったのかとお互いにびっくりするほどだったそうです。どうやら、日本人には災害時に助け合う気質が骨の髄までしみ込んでいるようです。つまり、日本に住む者にとって、最大の敵は自然災害なのでした。地震や津波であり、雷であり、火事でした。自然から大いなる恵みを受ける代わりに、甚大な自然災害も受けてきました。これらは日本列島に住むかぎり避けることができず、また容易に防ぎきれるものではありません。災害で大事な人命や財産を失ったとしても、誰を恨むこともできません。できることは、ただ復興にむけて立ち上がることだけなのです。

 

一方、中国やヨーロッパの大陸における最大の敵は人です。ユーラシア大陸はヒマラヤ山脈以南をのぞくと東西に平坦な土地が広がり、有史以来多くの騎馬民族が東や西へと移動しました。その結果、大陸の両端で定住生活を送っていた人たちは略奪と殺戮の目に合い、土地を去るか、奴隷にならざるをえませんでした。彼らは自らが受けた屈辱を忘れず、何世代、何十世代にもわたって復讐の機会を待つことになります。復讐が成功し、土地を取り戻しても、けっして安寧は訪れません。奪われた相手も復讐心を抱くからです。したがって、ロシアとウクライナの紛争から分かるとおり、歴史的な禍根は容易に消すことができず、戦争が必然的に繰り返されるのです。

 

民族の生存を脅かす対象が人であるか、自然災害であるか、これが欧米や中国のいわゆる世界標準に対する日本文化の特殊性の要因になっている、とイカ男は考えます。むかし、自然災害は前触れもなく人びとを襲い、あらゆるものを奪っていきました。しかし、誰も悪くなく、誰も責められないので、どんなに泣き叫んでも、どうすることもできません。あとは生き残った者で生活を立て直すしかありませんでした。ここで重要になるのが、助け合う心や協調性です。津波で流され、または火事で焼けつくされた後、人間一人ひとりはほとんど無力になります。我々日本人は日頃から、何かあったら困るので、まわりの人たちに気を配る、という習慣を身につけてきました。この何かあったらというのは、実は自然災害のことだったのですね。もし、大金持ちで他人の頬を札束で叩くような日常生活していたら、災害時に生き残っても財産を略奪されるかもしれませんし、略奪はされなくても、少ない食糧を分けてもらえないかもしれません。いずれにしても悲惨な末路が予想されます。なので、日本人はまわりから突出した生活を慎んできたのかもしれません。

 

上の考察にいくらかの理があるとすれば、先に述べた日本人の特徴もそれなりに納得できます。さらに、自然を祭祀する神主としての天皇も受け入れらそうです。戦後、日本人の個人主義が強まり、また天皇に対する敬意が薄くなったのは、幸運にも巨大な自然災害が少なかったからかもしれません。どうやら日本人がその力を最も発揮するのは、皮肉にも自然災害の脅威にさらされたときのようです。実際、我々の祖先は数えきれないほどの災害を乗り越えて、その都度立ち上がり、独自の文化を築いてきました。したがって、我々の気質は彼らの生きざまを継承した結果なのであって、むやみに卑下したり、否定することもないのです。

 

最後に、イカ男が日本人とはなにか?について考えた、とりあえずの結論を述べさせていただきます。

にほん-じん【日本人】 極東の日本列島に定住することを選択した人々のこと。自然環境に恵まれる反面、毎年または周期的に発生する自然災害に備え、また災害発生時には助け合い、その後は協力的に復興することを旨とする生活様式をもつ。日本語を話し、象徴天皇制を支持する。にっぽんじん。

お粗末でした。

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