11. 科学的な資源管理?
水産庁は、国立研究開発法人水産研究・教育機構や道県試験研究機関、大学、漁業者団体などに調査・研究を委託または協力要請して、高度回遊性魚類のカツオ・マグロ類やカジキ類、サンマ、サメ類、溯河性魚類のサケ・マス類、公海域の外洋底魚類・イカ類などの資源を調査(水産資源調査・評価推進事業)しています。HPには2002年度からの調査結果が掲載されていて、誰でも見ることができますね。2001年に漁業法が改正されて、獲努力量規制と総漁獲量規制(TAC)が導入されたからです。このときの法改正では、日本の漁業資源の持続可能な利用と管理を目指し、漁業規制の近代化を進めることが目標とされました。
その背景には、1982年にジャマイカで開催された第三次国連海洋法会議最終議定書と条約の署名会議において国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約)が採択され、1984年までの署名開放期間中に159ヶ国が署名(我が国は1983年2月)、1994年11月に発効(我が国については1996年7月)したことがありました。
この条約では、領海の外側にその基線から200海里を超えない範囲内で排他的経済水域(EEZ)の設定が認められ、EEZ(海底及びその下を含む)においては、天然資源の探査や開発、保存や管理等のための主権的権利と、人工島や施設、構築物の設置と利用、海洋環境の保護と保全、海洋の科学的調査などに関する管轄権が認められています。日本は日本海や東シナ海などで複数の国と接していますので、我が国の水産業と漁業者を守るために、速やかに適切なEEZを設定する必要がありました。

日本海における各国のEEZ
一方、EEZ設定には、排他的経済水域における生物資源の保存・最適利用促進の義務が課され、その水域における漁獲可能量と自国の漁獲能力を決定したうえ余剰分については他国に漁獲を認めなければなりません。つまり早い話、水産資源調査・評価推進事業は、我が国のEEZを他国に認めさせて、国内の水産業と漁業者を守るために始められたのでした。要するに、初期の事業計画を立てるときから、真の意味での水産資源の管理・保護を目指したものではなかった可能性があります。
資源量を推定するためには、漁獲データが必要ですが、当然その魚種の分布海域から満遍なく収集する必要があります。しかし、国が行っている事業は、「我が国周辺海域における主要な水産資源」を対象にしたもので、「我が国周辺」とは基本的にEEZのことです。どんなに正確であっても、日本国内のデータだけでは資源全体の推定などできるわけがありません。沿岸海域のみの調査・研究で資源全体の管理・保護ができるのは、せいぜい漁業権に設定されている地先定着種くらいでしょう。さらに、将来の資源量の動向を推定するためには、漁獲される成熟個体と次シーズンに加入してくる若齢個体との親子関係を明確にしなければなりません。実はこれはとても重要な点で、単に成熟個体がいるからとか、産卵しているからとかだけで主たる再生産海域だとはいえません。外部にもっと大きな産卵海域があってそこから海流によって運ばれている可能性があるからです。漁獲量に相応な量の産卵がおこなわれているかどうかも考察すべきです。少なくとも上の2点を解決しないことには、どんなに難しそうな数学を使った最新の統計学的手法から出た結果であっても、それは見かけ上「科学的」なだけで、けっして資源全体の動向を把握できません。
それを図らずも証明してしまったのが、最近資源量が増えている太平洋クロマグロです。この資源量増加が、他国と連携して2015年度から始めた漁獲量半減という厳しい漁獲管理の賜物であるとしたら、やはり国際的な管理計画と厳しい管理措置が必要だということです。実際に管理措置があまりにも厳しいために、いまでも漁業者からはたいへんな反感があるようです。逆に、毎年ほぼシャンシャンで終わっている他種の資源評価は、まだまだ甘いと言わざるを得ません。しかし、それは当然のこと。そもそもこの調査・研究は、日本の水産業と漁業者を守るための行政的な事業であり、その委託をうけている機関も実質、行政の出先なのですから。
本来であれば、大学などの第三者機関(「御用学者」でない)が別途調査・研究すべきですが、近年は研究費の減少からか、水産業として重要な魚種を研究している例は多くありません。イカ男は個人的に、過剰漁獲で水産生物が絶滅することはないと考えていますが、もし将来の食糧危機に備えて適切な量の資源を維持するのであれば、大学などで真に科学的な調査・研究をして、相応の管理をする必要があるでしょう。他方、水産庁は国の行政機関として、いまの日本の水産業と漁業者を守らなければなりません。それぞれ担うべき使命が違うのです。この意味で、一方的に水産庁を非難しても仕方がないですし、また逆に、過剰に環境や生物の保護に走っても仕方がありません。
どのくらいの塩梅で両者のバランスをとるか。それを議論するためには、国内外からの幅広い情報と意見、それを議論するオープンな場が必要です。
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