5. 若者の皆さん、ごめんなさい

防衛費の増額がほぼ決定し、いまその財源をめぐって議論が戦わされています。消費税の税率を上げるとか、とりあえず「つなぎ国債」で賄うとかの意見があるようです。つなぎ国債とは、将来見込まれる特定の歳入を償還財源として発行される国債なので、ようするにいつかは必ず償還しなければならなりません。

 

しかし、国防のような、国家の維持・存立に直接かかわるような事業については、償還なし(または永久借り換え)の国債発行で対応することが世界の常識だとイカ男は考えます。というよりもむしろ、国債発行は国防費の調達にこそ必要な方法です。

 

1945年、日本が連合軍に降伏したとき、GHQ(連合国軍総司令部)は日本がふたたび戦争を起こさないように日本国憲法の草案をまとめ、さらに前文や第9条にかかげた戦争放棄を担保するため、財政法4条によって国債発行を厳しく制限しました。これらは、当時日本の与野党でも合意されたことです。国債発行が制限されると、通貨量を主体的に増やすことができないので、まさに自縄自縛の状態になりました。

 

本来ならば、戦争を起こしたバツとして、その時点で発行していた通貨量のまま、東アジアの最貧国として生き続けなければならなかったはずでした。ところが、1950年からの朝鮮戦争特需で民間企業が銀行から大量にお金を借りたため、予想外の通貨が市中に出回るようになり、経済が急速に回復し、その後も好循環が続き、高度経済成長へとつながります。民間が借りていたお金を銀行に返しても、その間に通貨が市中をぐるぐる回ったため、国民の所得が増加したのです。国民の所得の合計でもあるGDP(国民総生産)が増加し、政府の税収も増えたので、結果的に歳入と歳出のバランス(プライマリーバランス)がとれる状態が続きました。ただし、本来なら歳出は国債で賄えばいいのですから、税収がどれくらいあるかを気にする必要はなく、歳入と歳出は単に数字を並べて見比べているだけにすぎません。

 

しかし、1990年代前半のバブル崩壊以降、民間の銀行からの借り入れが激減し、市中から通貨が消えていきました。通貨が減ると需要も減り、デフレ状態になります。需要の見込めない状況で、民間企業が大規模な投資をするなんて、できるはずがありません。民間は借りた金をかならず返さなければならないからです。民間が国民のために大きなリスクを背負って投資するなどありえないことです。

 

こんなときは、政府がなんでもいいからそれらしい理由をつくって、大規模事業などの財政支出をするしかありません。ただ、できるなら発展性のある事業の方がいいですね。10のうちに一つくらいには当たりがでて、民間もそれに続いて投資するかもしれません。そのような流れの中で、技術革新や商品開発などが起こるのです。

 

国債は、政府の借金といえば言えないことはないですが、国の借金ではありません。日本の外貨準備高は1,250,228百万ドル(2023年1月末現在)で、中国に次ぐ世界第2位のお金持ち国なのです。一方、貿易や投資でどれだけ稼いだかを示す2022年の経常収支は10兆4432億円の黒字ですが、最近5年間は黒字幅が減少してきています。収支が黒字なのでまだ問題ないのですが、日本のように資源が貧弱で、災害が多い国は、常に大量の外貨を保持しておく必要があります。外国から燃料や原材料などを買うときは外貨が必要だからです。そのためには他国が欲しがる商品を輸出し、貿易収支を黒字にしておく努力を続けなければなりません。戦前は綿と絹の繊維製品、戦後は鉄鋼や船舶、家電製品、そして近年は自動車を主に輸出してきました。しかし、最近の国際自動車市場の主力はすでに電気自動車に移り、日本の自動車輸出産業は斜陽化しつつあります。もし、ガソリン車やハイブリッド車が外国で売れなくなったら、貿易収支の赤字は必定です。

 

ここ30年間、世界の人々をあっと言わせるような商品開発をしてこなかった日本。次の30年間、何を売って生計を立てていけばよいのでしょうか。イカ男の世代は、すっかり次世代につけを回してしまいました。国債残高がつけなのではありません。国債を発行せず、野心をもって新しい分野に挑戦せず、新商品を生み出せなかったことがつけなのです。もはや懺悔する言葉もありません。

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