6. こんなところでお会いできるとは!

2月、フィリピンのルソン島北部でUroteuthis属イカのサンプリングを終えたあと、3月には台湾北部で同様のサンプリングを行いました。本来であれば、「ケンサキイカ」のカテゴリーで報告すべきなのですが、今回はあえて「スルメイカ」でお伝えします。

台湾北部周辺(Googleマップ)

というのは、台湾の基隆市沖でトロール漁船によって漁獲されたイカをランダムサンプリングしたところ、なんとスルメイカが1個体混じっていたからです。もちろん、その他のイカはケンサキイカをはじめとするUroteuthis属でした(種の同定は遺伝子分析を待たなければなりませんが)。

スルメイカ(外套背長232mm)

同上(開腹)

スルメイカは成熟したメスで、ふ化後おそらく1年近くたっていると思われます(後日、平衡石の輪紋を計数して日齢を調べます)。国立台湾海洋大学の先生によると、スルメイカは極まれにしか漁獲されないので、サンプリングで採取できたのはとても幸運だということでした。確かに、『新編世界イカ類図鑑』ウェブ版によると、最南端の採取記録は香港とあるので、台湾海峡や台湾北部で見つかってもおかしくはありません。ちなみに、北限はカナダでの記録があるそうです。

 

このスルメイカはいったいどこからやって来たのでしょうか。スルメイカの主な漁獲海域は日本や韓国の周辺ですので、どう考えても北から南下してきたはずです。東シナ海の海流を調べてみると、秋から冬にかけて、中国大陸沿岸では南下流が発生することが知られています。そこで思い出してください。イカ男は昨年、黄海で漁獲されるスルメイカをサンプリングしました。12月には水温が低下して漁獲物はなかったのですが、7月から9月に漁獲された冷凍イカを購入してきました。夏から秋に黄海の韓国沖で漁獲されていたスルメイカの仲間は、秋から冬にかけて中国沿岸に接近して行ったと考えられます。とすると、その後、大陸沿岸流で台湾海峡へ南下したとおもわれます。であれば、香港で採取されても不思議ではありませんね。

2022年11月1日の10m水温・海流図(DREAMS_M)

年が変わると、南下流は弱まり、台湾暖流の勢いが復活します。今回採取されたスルメイカはこの流れにのって台湾北部に来遊したのではないでしょうか。こんな長旅を想像すると、ついでに獲れたスルメイカでもなんだか愛おしくなりました。

2023年3月1日の10m水温・海流図(DREAMS_M)

さて、このスルメイカはどこで生まれたのでしょうか。産卵回帰ということを考えると、同じく台湾北部で生まれたと考えたくなりますが、それにしては確認される親イカの数が少なすぎます。やはり、日本や韓国で漁獲される多くのスルメスルメと同様に、対馬海峡や東シナ海北部大陸棚周辺で生まれたのだとイカ男は考えます。

 

いずれにしても、貴重なサンプルですから、これから平衡石の分析を進めたいと思います。なにか面白いことが分かったら報告しますので、しばらくお待ちください。

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