8. やれることは限られているけれど…

今日は2023年12月17日、イカ男のすむ町には初雪が降りました。この季節になると、対馬東水道(対馬海峡で対馬よりも東側の海域)でもスルメイカが本格的に漁獲されます。長崎に住む友人に、スルメイカを購入してくれるよう頼んでおいたのですが、なかなか連絡が来ません。今シーズンは昨年にもましてスルメイカが不漁のようです。たしかに、近くのスーバーに寄っても、ケンサキイカは並んでいてもスルメイカはとても少ない。ケンサキイカは驚いたことに予想どおり(自画自賛)、長崎県産をはじめ、宮城県産や愛媛産があります。しかしながら、ケンサキイカがスルメイカを逆転する時代がくるとは夢にも思いませんでした。

ケンサキイカ(上は愛媛県産、下は宮城県産)

 

スルメイカの極端な不漁の兆候は9月にはありました。イカ男がサンプリングのため、韓国の日本海側にある江陵(カンヌン)市に行った時のことです。江陵は日本の函館くらいスルメイカの水揚げで有名な町だそうです。立派なイカのオブジェも建っていました。

イカのオブジェとイカ男

この町を紹介してくれたのは、韓国の大学で海洋物理学を教えているS先生です。現在はソウル市にお住まいですが、高校までは江陵で育ったそうで、毎朝とれたてのスルメイカを食べていたということでした。地元で妹さんが営んでいる活魚鮮魚店でイカを購入するとき、今シーズンの漁況について聞きました。妹さんは、過去に経験したことがないほどの不漁で、値段もいつもの1.5倍から2倍くらいはすると言い、申し訳なさそうでした。たしかに、店頭に並んでいるイカの数は少なく、むしろズワイカニの方が多いくらい。話によると、まったく水揚げがない港もあったようです。この状況を知って一番ショックを受けていたのはS先生で、なぜこんなに獲れなくなったのか、漁業者はこれから暮らしていけるのか、イカが観光資源でもあるこの町はいったいどうなるのかなどと矢継ぎ早に質問されるのですが、イカ男はどう答えていいか困ってしまいました。なぜなら、韓国東岸沖の対馬海盆こそが産卵イカの主要な索餌海域であり、江陵沿岸で漁獲される群の一部が秋に対馬海峡まで南下して産卵するはずだからです。もし、本当にこの群れが激減しているのであれば、その子の世代はさらに減る可能性が高く、容易に資源が回復するとは思えなかったからです。

数少ない活イカ

とはいえ、たまたまその時その海域に限ってイカがいなかったということもあるので、あえてブログには書かなかったのですが、長崎沿岸海域でもイカの漁獲が極端に少ないようなので、事態は深刻なのかもしれません。情報筋の話では、昨シーズンの韓国のスルメイカ漁獲量の半分は黄海からだったそうです。少なくとも5年前までは、黄海での漁獲量が話題に上ることはありませんでした。今シーズンも黄海の漁獲は順調のようなので、黄海と日本海の漁獲量は確実に逆転するでしょう。

 

生物の分布がこれほど劇的に変化する過程を目の当たりにできることは、海洋生物を研究するものにとって、ある意味僥倖なのかもしれないとは思いつつ、漁業関係者の方々にはたいへんな時代だろうなと心が痛む思いです。せめて、その原因だけでもはっきりさせるのが研究者の責務だと、最近は自分に言い聞かせています。

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