11. ウラボスは誰⁇

令和5年12月、自民党最大派閥の安倍派では、政権の要となる官房長官だった松野氏ら派幹部を含め大半の議員側がキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していなかった疑いが明らかになり、4閣僚が交代することになりました。もちろん報告書への未記載は明確な違法行為なので、厳格な処分が必要ですし、マスコミも詳細に報道する必要があるとおもいます。

 

ただ、現在は賃金上昇が伸びなやむなか物価が上昇し、国民の生活がたいへん厳しくなっています。さらに、防衛費増加を穴埋めするため近々増税されるのではとのうわさもあります。たしかに国民が苦しいなかで政治家が不当なやり方で資金集めをしているのは許せないですが、政治家を批判してばかりいても国民の生活は良くなりません。具体的な施策を議論することが重要です。

 

11月、岸田総理は所得税の減税案を表明しました。国(一般会計)の税収が昨年度71兆円を超えて過去最高を更新したため、税収の増額分を国民に還元しようとするものでした。総理の案は、その後さまざまな批判を受け、今どのような議論をされているのでしょうか。たしかに還元される金額は少なかったはずですが、まったくないよりもあった方がいいと思います。

 

このような状況で思い出すのは、安倍元総理が「財務省と、党の財政再建派議員がタッグを組んで、「安倍おろし」をしかけることを警戒していた」と回顧していたことです。安倍氏は「アベノミックス」で知られるように、積極財政を推進した代表的政治家でした。そのため、安倍派には積極財政派の議員が多く所属し、時に応じてその旨の発言をしていました。一方岸田総理は、宏池会の会長(当時)であり、宏池会はリベラル色が強く、むしろ緊縮財政派なのですが、党総裁選では積極財政の必要性を強く主張していました。よって、デフレ下の現在の日本には積極財政政策が不可欠との認識があったと考えられます。さらに、政権の脇を固める萩生田前党政調会長や世耕前参院党幹事長、西村前経産相など安倍派の議員が減税案を後押ししたと想像されます。

 

ところが、今回の「政治資金パーティー事件」によって、減税案どころか安倍派の存在、そして岸田政権そのものも葬り去られようとしています。たしかに岸田総理には主体性がみえず、まことに頼りないかぎりではありますが、悪い方向へ一直線に進むタイプではないようです。次の総理候補にあげられている人物には、リベラル色が強すぎて国益を毀損させかねないような方もいらっしゃいます。負のスパイラルに陥るまえにいま一度、冷静に考えるべきです。

 

もし安倍氏が述べたように、政権が減税や積極財政につき進むと、財務省は倒閣に動く、ということが本当であれば、今回の事件は財務省がウラにいたことになります。ネット上ではそのような言説に溢れているのですが、いわゆるマスコミではまったく聞かない話です。このように、情報の主な入手先で事件の見え方がまったく異なってしまう状況はとても不幸なことで、近い将来国民に分断が生じるのではないかと不安な気持ちになります。

 

ネット情報とはいえど、国税庁は財務省の外局であり、脱税事件では東京地検と捜査協力するということなので、財務省がウラボスという説は十分説得力がある話ではあります。この話の真偽はともかく、一般の政治家がほんのわずかでも財務省の関与を疑ったら、もう減税とか積極財政について言及することは難しくなるでしょう。つまり、我々国民の生活が楽になることはないということです。圧倒的な一強体制を敷いた安倍政権でさえ恐れた最強官庁、いや最恐官庁。さすがは東大法学部卒のエリート官僚ぞろいですね。

 

ところで、財務省は予算編成などをつかさどる官庁なのに、なぜほとんどの官僚は法学部卒なのか、とイカ男はずっと疑問でした。経済学部や商学部、理学部数学科などを卒業した学生が適任のようですけど。実は、税金をとる法案をつくるのがいちばんの仕事なのだそうです。トホホ。

 

  • 『安倍晋三回顧録』 北村滋監修 中央公論新社 2023年

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