31. 旧正月の誓い

つい先日(2月上旬)までベトナム中部沿岸のニャチャンに滞在し、Uroteuthis属イカのサンプリングなどをしてきました。ニャチャンではこれまで何度かサンプリングしましたが、今回はDNA分析用の組織片も採取し、種同定を行う予定です。つまり、魚市場にいくとケンサキイカに見える多数の小イカが売られていますが、この中には多ければ4種か5種のイカが混じっている可能性があります。大きくなれば、吸盤の角質環を観察すればなんとか区別できますが、小さい頃はとても難しいです。さらに、熱帯や亜熱帯に生息するケンサキイカは一般的に若日齢で成熟し産卵するため小型の個体がほとんどで、見つけることがさらに難しいのです。

ニャチャン漁港そばの魚市場

 

今回は時間があったので、ニャチャン市にあるthe Institute of Oceanographyの博物館を訪れて、標本を見せてもらいました。現在Uroteuthis属とされている種では3種類が展示されていて、これは前回のサンプリングで確認した種でした。また、南シナ海をはさんで位置するフィリピンでサンプリングした個体とも当然重なります。

U. edulis

U. duvauceli

Loligo formosana  = U. chinensis

  Loliolus beka

 

南シナ海沿岸におけるイカ類の分布に興味をもっている研究者はもちろんイカ男だけではありません。共通の知人の紹介で、同市内にあるVietnam-Russia Tropical CentreのFedorさんを訪ね、情報交換をさせていただきました。彼は沖縄にあるOIST(沖縄科学技術大学院大学)と共同研究をしていて、場合によっては調査に同行させてあげてもいいと言ってくれました。イカ男が異国で単独調査をすることはほぼ不可能なので、とても嬉しく思いました。フィリピン海や南シナ海から台湾海峡などを経て、東シナ海や太平洋、黄海、日本海へとむかう海流とイカ類の分布を広く研究したいと夢のようなことを思っていたのですが、いくらか現実味を帯びてきました。これからも東シナ海と南シナ海を飛び回ってイカを追い続けます。

 

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31. 旧正月の誓い” に対して2件のコメントがあります。

  1. 相田一郎 より:

    ご活躍のこととお喜び申し上げます。もし本年度終了予定のacademistクラウドファンディングを継続されるなら引き続きご支援させていただきたいと思います。
    さて生物種の同定にDNAはゴールドスタンダード(医療界の言葉です)でしょうが、若日齢で成熟し産卵する南洋のイカと日本近海まで北上するイカとはDNAが同じでもサケ属の陸封型と降海型のように生態が異なることもあろうと思います。
    つまり同属同種でも別の環境に慣れて別の生態を獲得してしまえば別種のようにふるまうわけで、これを一過性のゆらぎと考えるか回復不能の「進化」と考えるかで研究アプローチも異なってくると思います。
    ベトナムで大量のイカを研究するのもロマンですが、日本近海に来る数少なくなったイカに対象を絞り続けるのもまたロマンと思います。

    1. ika-otoko より:

      コメントありがとうございます。、また、クラウドファンディングでのご支援ほんとうにありがとうございます。クラウドファンディングは今月末をひと区切りとして、終了することにしています。もし、なんらかの企画が生まれたら、また挑戦するかもしれませんので、そのときはぜひご支援をよろしくお願いいたします。

      イカ類のDNA分析につきましては、あいにく私は専門外で、ほぼ共同研究者にお任せの状態になっています。彼とのディスカッションでは、相田さまがコメントされたような話題がありました。今後はより深く理解するために、私も遺伝子に関して勉強したいと思っています。

      日本近海に来遊するイカを対象にすべきとのこと、まことにその通りです。いま私がもっとも関心のある海域は仙台湾から三陸沖にかけてです。ご承知のとおり、近年は親潮域が縮小して黒潮が三陸沖まで北上し、小型のケンサキイカが漁獲されるようになりました。このケンサキイカの多くは東シナ海の大陸棚でふ化したものと考えられますが、私はフィリピン海から黒潮で流されてきたものも混じっているのではないかと思っています。つまり、見た目はケンサキイカでも、ほんとうはヒラケンサキイカだったり、アジアケンサキイカだったりする可能性があると思います。黒潮内側部にあたる四国や近畿、東海、関東地方の太平洋側沿岸よりも、黒潮本流の影響が強い東北の太平洋沿岸の方が熱帯海洋生物の漁獲される可能性が高くなるかもしれません。これからさらに温暖化すると、当該海域がまるで「飛び地」のような生物分布をみせるのではないか。ちょっと、ぶっ飛んだアイデアですが、それを頭の片隅におきながら南シナ海でのケンサキイカ属のそれぞれの種の棲み分け状況を知りたく、ベトナムやフィリピン海などでサンプリングをしているわけです。

      少なくともイカの分布に関しては、台湾周辺海域が南北を分ける境界になっています。台湾北部には湧昇流海域があり、水温低下が一つの原因になっているのかもしれません。もし、鹿児島県南部が台湾くらいの水温になったら、日本で漁獲される水産生物は劇的に変化するはずです。それがいいのか悪いのかは分かりませんが、研究者としては想像せずにはいられないテーマです。

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